てふてふ蝶々

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「とりあえず、座って話そうか」
と、青ざめた顔した夫を食卓テーブルに向かわせる。
今し方閉まったばかりの玄関を見つめる。
私はキッチンへ行き夫の分だけコーヒーをいれる。
コーヒーの香りに気分が悪くなりそう。
夫がこちらを不安そうに見つめているのを背中に感じる。
1人分のコーヒーをテーブルに置いて私も座る。
こちらの様子を伺うような視線で何も言葉を発しない夫に少し苛立つ。
仕方ないからと、私から話を切り出してあげる。
時間ないし。
「で、さっきの女性と不倫してたの?」
「いや、違うんだ!そんなんじゃない!気の緩みというか…そう、酔った勢いっていうか、俺は君だけが好きなんだ!誤解しないで欲しい!」
「いやいや、誤解する前に話聞いておこうってだけよ」
「俺は君だけだ!それだけはわかって欲しい!」
「でも、彼女、妊娠してるって言ってたわよ?」
「俺の子じゃない!」
「でも、エコー写真みせてくれたから妊娠は本当なんじゃない?誰の子かは別としてもさ」
「そうかもしれないけど、俺の子じゃないから!」
「そお?本当に?最近帰りが遅いどころか日が登ってから帰宅してさっと着替えだけして出社も良くあったからさ。疑われても仕方ないと思うんだ」
「違う!本当に!酒の強い上司がいるって言っただろ?」
「私と最後に一緒に夜ご飯食べたのいつだっけ?」
「…」
「してしまった事について、とやかく言うつもりはないのよ。今後どうするか決めましょう?」
「断じて俺は浮気なんてしていない!」
「だから、そうじゃなくて、今後もこうやって彼女に突撃されても迷惑なの」
「…」
「会社に報告する?迷惑してますって」
「いやダメだ!昇給かかってるんだよ。今が踏ん張り時なんだよ!」
「…困ったわね」
「とにかく、会社に連絡だけはしないでくれ!俺が稼がないと君も困るだろ?」
「まぁ、専業主婦になったしね。」
「早く子供産んで貰って賑やかで暖かい家族になりたいんだよ。君はきっといいお母さんになるから、子供と君が金に困らないように飲みたくない酒飲んだりさ…君が妊娠すりゃ上司に断りも入れやすいんだけどなぁ。コレばかりは授かり物だから…」
「…そうねぇ。とりあえず、夜も遅いし今日はもう寝ましょ?私、なんだか体調が優れなくて…」
「…子供…?じゃないよな。最近…その…してないし」
「そうね。違うと思う。季節の変わり目だからかしらね。」
「…そうか…わかった。先にベッド行ってて、風呂入ったら俺もすぐ寝に行くから」
「うん」

ベッドに横たわり、お腹をさする。
最近の私の癖になりつつある。夫は気付きもしないだろけどね。
妊娠がわかると同時に見つかった癌。
「愛妻家だと思ってたのになぁ」
それを伝えてしまったら、子供は諦めて癌治療に専念してほしいって言われたくなくて、産むしかないって時期まで黙っておこうと思ってた。
仕事に励んでくれる夫に心配かけたくもなかった。
「困ったお父さんね。」
産まれてくるのは、この子かあの子か両方か。
神様はどんな顔してみてるかな。

7/4/2023, 11:52:24 AM