てふてふ蝶々

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7/5/2023, 2:20:06 PM

「ママ!カエルがいるよ!カエル!」
「わぁ、本当だー」
「カエルさん、こんばんは!」
「カエルさんもこんばんはって言ってるよ」
「私、こっちに引っ越すまでカエルさんは緑色だって思ってたの。ママも?」
「うーん?違う色のもいるって知ってたけど、見るのは初めてだなぁ」
「そっかー。このカエル可愛くないねー」
「そう…そうかなぁ」
「茶色でデコボコでブサイク!」
「うーん。見る人が見たら可愛いと思うんだよ」
「そうかなぁ?ママが言うならそうなのかも。」
「今日ね、幼稚園にカエルさんがいてね!緑色のコレより可愛い方のやつね!私、びっくりしてギャー!ってさけんじゃったの」
「ママでもいきなりのカエルさんならギャーっていっちゃうかも」
「でしょ?なのに、幼稚園のお友達がさ、これだから東京もんは!ってバカにしてきて頭に来ちゃった」
「まぁ、東京からきたのは本当だしね」
「ママだったら怒らない?」
「うーん?どうかなー。怒ってもねぇ」
「そういうママの煮え切らない態度が良くないのよ!」
「…ちょっと、どこでそんなセリフ覚えたの。」
「私はね!怒ったよ!すっごくすっごく怒ってね、カエルさんの近くにいたカタツムリをその子に投げてやった!」
「へぇ。カタツムリ。」
「そう!カタツムリってバイキンがいっぱいいるから触っちゃだめなのに、手掴みで投げた!」
「そうなの?バイキンいるんだ。知らなかったなぁ。ってダメって言われてた事したらダメじゃん」
「だって、私の事、東京もんって馬鹿にしたんだよ?ママに意地悪言ってるおばあちゃんみたいな顔してたもん」
「おばあちゃん、意地悪かなぁ」
「そーだよ!私達のいた東京とこの田んぼの中じゃ知ってることが違うって知らないのかな!口癖みたいに亀の甲より年の功っていう癖にさー。ママのお仕事の凄さ知らないなんて、おばあちゃんは井の中のカワズね」
「だからいつそんな言葉…っていうか上手いこというじゃない」
「ママのデザインする作品はさ。たくさんの人が見て凄い!って言ってくれるしとっても綺麗なのにね」
「うん。ありがとね。ママもこのお仕事好きよ」
「私もママの作品好きー」
「私も将来はデザイナーになる!」
「そうなの?」
「うん!こっそり原案なんてあるんですよ」
「原案…大人の言葉よく聞いてるのね」
「ママと東京に帰れるなら、こっそり教えてあげてもいいよ!」
「東京に帰りたいの?」
「私はどっちでもいい!でもママと一緒にいる!ママははここより東京にいた頃の方が幸せそうだったよ!」
「ママが東京に帰りたいなら教えてあげる」
「うーん。色々大人にも事情があるのよ」
「ほら!そうやってハッキリしないとこ!だからおばあちゃんに付け込まれるんだ!」 
「確かにねぇ。ハッキリしなくちゃね。」
「そうそう!その勢いよ!ママ、私はこの悔しさを夜空の星で表すの!」
「ほぉ」
「勝手にキラキラしてて、綺麗だろ?って見せつけてる癖に届かないじゃん?」
「そういう見方もあるわね」
「この土地の人から見たら東京もんってそんなかんじなんじゃない?」
「ほぅ」
「だからさ、東京の人が憧れて手が届かない田舎の星空を見せつけてやろうよ!」

7/4/2023, 11:52:24 AM

「とりあえず、座って話そうか」
と、青ざめた顔した夫を食卓テーブルに向かわせる。
今し方閉まったばかりの玄関を見つめる。
私はキッチンへ行き夫の分だけコーヒーをいれる。
コーヒーの香りに気分が悪くなりそう。
夫がこちらを不安そうに見つめているのを背中に感じる。
1人分のコーヒーをテーブルに置いて私も座る。
こちらの様子を伺うような視線で何も言葉を発しない夫に少し苛立つ。
仕方ないからと、私から話を切り出してあげる。
時間ないし。
「で、さっきの女性と不倫してたの?」
「いや、違うんだ!そんなんじゃない!気の緩みというか…そう、酔った勢いっていうか、俺は君だけが好きなんだ!誤解しないで欲しい!」
「いやいや、誤解する前に話聞いておこうってだけよ」
「俺は君だけだ!それだけはわかって欲しい!」
「でも、彼女、妊娠してるって言ってたわよ?」
「俺の子じゃない!」
「でも、エコー写真みせてくれたから妊娠は本当なんじゃない?誰の子かは別としてもさ」
「そうかもしれないけど、俺の子じゃないから!」
「そお?本当に?最近帰りが遅いどころか日が登ってから帰宅してさっと着替えだけして出社も良くあったからさ。疑われても仕方ないと思うんだ」
「違う!本当に!酒の強い上司がいるって言っただろ?」
「私と最後に一緒に夜ご飯食べたのいつだっけ?」
「…」
「してしまった事について、とやかく言うつもりはないのよ。今後どうするか決めましょう?」
「断じて俺は浮気なんてしていない!」
「だから、そうじゃなくて、今後もこうやって彼女に突撃されても迷惑なの」
「…」
「会社に報告する?迷惑してますって」
「いやダメだ!昇給かかってるんだよ。今が踏ん張り時なんだよ!」
「…困ったわね」
「とにかく、会社に連絡だけはしないでくれ!俺が稼がないと君も困るだろ?」
「まぁ、専業主婦になったしね。」
「早く子供産んで貰って賑やかで暖かい家族になりたいんだよ。君はきっといいお母さんになるから、子供と君が金に困らないように飲みたくない酒飲んだりさ…君が妊娠すりゃ上司に断りも入れやすいんだけどなぁ。コレばかりは授かり物だから…」
「…そうねぇ。とりあえず、夜も遅いし今日はもう寝ましょ?私、なんだか体調が優れなくて…」
「…子供…?じゃないよな。最近…その…してないし」
「そうね。違うと思う。季節の変わり目だからかしらね。」
「…そうか…わかった。先にベッド行ってて、風呂入ったら俺もすぐ寝に行くから」
「うん」

ベッドに横たわり、お腹をさする。
最近の私の癖になりつつある。夫は気付きもしないだろけどね。
妊娠がわかると同時に見つかった癌。
「愛妻家だと思ってたのになぁ」
それを伝えてしまったら、子供は諦めて癌治療に専念してほしいって言われたくなくて、産むしかないって時期まで黙っておこうと思ってた。
仕事に励んでくれる夫に心配かけたくもなかった。
「困ったお父さんね。」
産まれてくるのは、この子かあの子か両方か。
神様はどんな顔してみてるかな。

7/3/2023, 11:52:44 AM

私の前には大きな樹の枝のような分かれ道。
「はぁ、この中から一つしか選べないんだよね?」
と、一緒に歩んできた地蔵に話かける。
「左様ですねぇ。」
「どの道がいいと思う?」
「私に聞かれましても困ります。ついて行くのが私の仕事ですからね。」
「地蔵って道案内するんじゃないの?」
「ええ、それが私の仕事でございます。」
「じゃあ、どれ選んだらいいか教えてよ」
「はぁ、どの方も20年弱生きてこられたら同じようにおっしゃいますねぇ」
「私が初めてじゃないの?」
「そりゃぁ、地蔵も若造から玄人までおりますが、私は中間ですかね。数百人、旅をご一緒させていただきましたよ。」
「どうやったら旅が終わる…死んだ時?」
「左様でございます。私はあの世への案内人ですので、生まれてから主様の元に帰るまでの旅をご一緒する地蔵にございます。」
「死んでから迎えに来りゃいいじゃん」
「私は旅地蔵でして、死神ではございませんゆえ」
「…色々あるのね」
「…振り返って見てください。ウネウネとしたあの一本道があなたの通った道でございます。」
「マジだ。前はこんなに別れてるのに、通らなかった道、消えちゃうの?」
「左様でございます。しかも一方通行でございまして、停止時間も決められております。ほら、あの信号が青のうちにお選びください。」
「えっ!信号?点滅してるじゃん!」
「ですからお急ぎを。」
「あーっこの道、真っ直ぐっぽいから、コレにしようかな!」
「そうですか。わかりました。ついて行きます。多分その道はあの世への最短ルートですね。」
「ちょっと待ったー!どう言う事?」
「人生の最後は死ですから。」
「あぁそう言う事ね。じゃあ幸せになる道どれ?」
「私にはわかりかねます。あなた様の幸せの形が見えませんから。」
「平々凡々、順風満帆!みたいなの」
「そのような道はございませんよ。あなたが通った道もそのようであったでございましょう。今、最短の道を選ばない方は幸せを知っている方でございます。長い旅となりましても、ご一緒しますゆえ好きな道をお選びください」
「はぁ。役に立たない地蔵だなぁ。悔しいから一番細くて歩きにくそうな道に進んでやるわ」
「良き判断に思いますよ。遠くにありますので小さくみえますが、暖かい光がみえますからね。頑張って共に歩きましょうか。信号が変わってしまいます。」

7/2/2023, 11:11:27 AM

おばあちゃんが3回目のくも膜下出血で植物人間になったのはもう3年も前。
おじいちゃんとやってたお店を閉めて二カ月程たった頃だった。
お店を閉めると決まった頃おばあちゃんがこっそり私に電話してきて
「おじいちゃんと離婚しようと思うのよ。」
って連絡が来た時はひっくり返る程びっくりした。
長年、仲良し夫婦だと思ってた。
おじいちゃんは、愛妻家でおばあちゃんのワガママを可愛いもんだっていつも言ってて、おばあちゃんは何が不満なんだろ?って不思議だった。
でも、長く連れ添って、一緒に商売してりゃ色々あるんだろうと、賛成も反対もしなかった。
そんな話をしてすぐ、おばあちゃんの3度目のくも膜下出血で、おじいちゃんから連絡もらってすっとんで病院に行ったらおじいちゃんはシワシワの手でポロポロ落ちる自分の涙を拭ってた。
それからは仕事しかしていなかったおじいちゃんは驚くべき家事能力を発揮し、家はピカピカだしご飯も自炊。毎日の日課はおばあちゃんのお見舞いと言う逢瀬。
去年から、植物人間と呼ばれるおばあちゃんは自宅介護になった。
今日はおばあちゃんの口紅というべき色付きリップをお土産におじいちゃんに会いに来た。
それを「ありがとう。すまんなぁ。やっぱりこういったもん買うのは恥ずかしくて」と嬉しそうにガサガサと包みからリップをだしておばあちゃんに塗ってあげるおじいちゃん。
「おーおー、やっぱりママは可愛いなぁ」と私なんか居ないって感じでおばあちゃんの手を握るおじいちゃん。
でも知ってる。私が居ない時はおばあちゃんの事、
“みっちゃん”って呼んでる。
私は、ピカピカのこの家でやる事はないけど、トイレ掃除とご飯を作ってから帰る。
トイレ掃除はどうかおじいちゃんが元気でいられますようにって。あとは料理が苦手だったけどそれなりにやってたおばあちゃんの代わり。
窓から西陽が入る時間になったら、おじいちゃんは「みっちゃん、ひどるくなったなぁ。夏がくるなぁ。」ってそっとおばあちゃんにあたる日差しを遮るように椅子を移動させた。
しばらく2人の時間を邪魔しないようにして、おじいちゃんにご飯できたよーって呼びに行く。おじいちゃんの着てるシャツに西陽が当たっておばあちゃんを守ってるみたい。おじいちゃんは、日除けの役割をカーテンに任せてから、
「ありがとう」って食卓につく。
「今度来る時は日焼けどめをお願いできんか?」と。
「いいよー夏がくるもんね。」
「ママは色が白いから心配だ。」
「おじいちゃんも体に気をつけてよ」
「あぁ、わかっとる。ママが死ぬまで死ねんからな」
って。
何も言わないおばあちゃんだけど、本当に離婚したかったなら、とっとこあの世に行っちゃってるだろう。
おじいちゃんに世話させて、ニヒルな笑い顔してるかな。
夫婦の事は夫婦にしかわかんないんだろうけれど、おじいちゃんみたいな人と結婚したいなぁっておばあちゃんに言ったらなんて返事が返ってくるのかな。

7/2/2023, 2:13:16 AM

私の家はマンションの三階。私の部屋は南向きで日当たりがいい。でも窓はずーっとカーテンが閉めてある。
だって、外の世界なんて見たくないんだもん。
少し前にお父さんが私にもう一つの窓をくれた。
それは一日中煌々と私の顔を照らす。
朝も昼も夜も関係ないとばかりに同じ光が私を照らす。
その窓と言う名のPCの中にはゲームやSNS。
知らない人と文字だけの会話。
やりとりする人の名前は多分、本名じゃないし、写真も拾った写真か加工したやつだと思うし、私だってそう。
この窓の中だけは、なりたい自分になれるんだ。
窓って名前のPCは名前の通り、ちょっとだけ覗き見はできるけれど、扉のように出入りはできない。
このままじゃダメだってわかってるけど、どうしても部屋から出られない。
SNSに新しいメッセージが届いた。
「久しぶり。」って。「誰?」って聞いたら、アオイって同級生の名前が返ってきた。
え?本物?本人だとしたら、どうして私ってわかったんだろう?お父さんもお母さんも私のアカウント知らないはずだし、個人情報がどうやってバレたのか。怖い。
とりあえず無視しよう。そうしよう。
久しぶりにパタンと光る窓を閉めた。
しわくちゃの布団にくるまって、どうしよう。どうしよう。と悩んでいたら寝てた。ぐっすりと。
この部屋に居れば安全。誰からも嫌な事言われないし。
SNSで嫌な奴いたらブロックしちゃえばいいし。
でも、アオイは気になる。
寝たからか、ちょっとスッキリした頭でもう一度、光る窓を開く。カタカタとタイピングしてアオイに話しかける「何?」コレならあのアオイじゃなくても大丈夫。私って知ってる人じゃないかもしれない。アオイなんてありふれた名前だし。
するとすぐに返事が来た。
「10分後、カーテン開けて。そしたら伝える」と。
えー!どうしよう。どうしよう。ボロい部屋着にボサボサ頭。カーテン開けたくない。
「じゃあ知らなくてもいい」と急いで返事。
その後は早く返信が来ないかとジッと光る窓を見つめる。なかなか返信が来ない。それでもジッと光る窓から離れられない。
ようやくアオイからの返信「10分たったよ」
この窓の向こうにアオイがいるの?凄いドキドキして汗が滲む。どうしよう。
怖いからまた布団にくるまって知らんぷりしようとする。今度はなかなか夢の世界に行くことができない。
気になって仕方ない。
少しだけ。少しなら。と、そっとカーテンの端っこを摘んで上げる。
マンションの前の道路にアオイはいた。
汚れた窓越しに見えたアオイはニッと笑う。開けたのがバレたみたい。そして、パクパクと口元が動く。
アオイはこちらに携帯を見せた。わけがわからないけれど、カーテンから離れて電子機器の窓を開く。
アオイから「話したよ」って。
「聞こえない」って答えたら
「じゃあ窓開けて」って
「無理」
「家行っていい?」
「無理」
「電話は?」
電話…
電話くらいならしてもいいかな?って思ってたら
「9時に電話するから」の文字。
わかったって返事はできないけど、アオイは電話かけてくれると思う。
窓はまだ開けられない。
でも随分前に充電の切れた携帯をコンセントに繋ぐ。
少し外の世界に繋がるかもしれない。

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