私の前には大きな樹の枝のような分かれ道。
「はぁ、この中から一つしか選べないんだよね?」
と、一緒に歩んできた地蔵に話かける。
「左様ですねぇ。」
「どの道がいいと思う?」
「私に聞かれましても困ります。ついて行くのが私の仕事ですからね。」
「地蔵って道案内するんじゃないの?」
「ええ、それが私の仕事でございます。」
「じゃあ、どれ選んだらいいか教えてよ」
「はぁ、どの方も20年弱生きてこられたら同じようにおっしゃいますねぇ」
「私が初めてじゃないの?」
「そりゃぁ、地蔵も若造から玄人までおりますが、私は中間ですかね。数百人、旅をご一緒させていただきましたよ。」
「どうやったら旅が終わる…死んだ時?」
「左様でございます。私はあの世への案内人ですので、生まれてから主様の元に帰るまでの旅をご一緒する地蔵にございます。」
「死んでから迎えに来りゃいいじゃん」
「私は旅地蔵でして、死神ではございませんゆえ」
「…色々あるのね」
「…振り返って見てください。ウネウネとしたあの一本道があなたの通った道でございます。」
「マジだ。前はこんなに別れてるのに、通らなかった道、消えちゃうの?」
「左様でございます。しかも一方通行でございまして、停止時間も決められております。ほら、あの信号が青のうちにお選びください。」
「えっ!信号?点滅してるじゃん!」
「ですからお急ぎを。」
「あーっこの道、真っ直ぐっぽいから、コレにしようかな!」
「そうですか。わかりました。ついて行きます。多分その道はあの世への最短ルートですね。」
「ちょっと待ったー!どう言う事?」
「人生の最後は死ですから。」
「あぁそう言う事ね。じゃあ幸せになる道どれ?」
「私にはわかりかねます。あなた様の幸せの形が見えませんから。」
「平々凡々、順風満帆!みたいなの」
「そのような道はございませんよ。あなたが通った道もそのようであったでございましょう。今、最短の道を選ばない方は幸せを知っている方でございます。長い旅となりましても、ご一緒しますゆえ好きな道をお選びください」
「はぁ。役に立たない地蔵だなぁ。悔しいから一番細くて歩きにくそうな道に進んでやるわ」
「良き判断に思いますよ。遠くにありますので小さくみえますが、暖かい光がみえますからね。頑張って共に歩きましょうか。信号が変わってしまいます。」
7/3/2023, 11:52:44 AM