ストック

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11/29/2023, 9:52:34 AM

Theme:終わらせないで

今日もまた朝日が昇る。
だんだん意識が覚醒するとともに、また貴方は少し寂しげな笑顔を浮かべて消えてしまう。

お願い、行かないで。どうかもう少し夜のままでいて。

貴方に会えなくなってから、現実が酷く冷たい世界になった。
唯一会えるのは、夢の中だけ。

でも、月日が経つにつれて、私の悲しみが癒えてくるにつれて、
貴方が夢に現れることが少なくなった。

お願い、貴方を喪った傷を癒さないで。
貴方に会えなくなるなんて、それが普通と思ってしまうようになるなんて、嫌だ。

お願い、この苦しみを終わらせないで。

11/26/2023, 1:57:58 PM

Theme:微熱

体温計がピピッと鳴る。
ドキドキしながら脇からそれを取り出してみると、37.4℃と表示されている。
僕は申し訳なさと嬉しさを同時に覚えた。

母さんに体温計を見せると「今日も学校をお休みしなさい」と言ってくれた。
母さんが部屋を出てしばらくすると、父さんが入れ替わるように部屋に入ってくる。
「父さん、お仕事に行かなきゃ行けないけど、早く帰ってくるからな」と言って僕の頭を撫でてくれた。

僕が風邪を引くと、父さんは家に帰ってきてくれる。
夜遅くに帰ってきて、母さんと喧嘩することもない。
なんとなく、父さんの帰りが遅いのは、母さんよりも大切な人がいるんだろうと思っている。母さんが買い物に行って留守にしている時に、父さんはよく電話をしている。
母さんと話すよりとても楽しそうに。

でも、僕が風邪を引くと、父さんは少なくとも早く帰ってきてくれる。
母さんと父さんの会話はどこかぎこちないけど、僕はそれでも二人が一緒にいてくれるのが嬉しい。

お風呂から出る前に、僕はシャワーで冷たい水を浴びる。
また明日も、微熱が続いてくれますように。

11/25/2023, 2:36:33 PM

Theme:太陽の下で

昼間の公園。太陽の下で、俺はベンチに座って人を待っていた。
待ち人が来るまで、まだまだ時間がある。
俺はぼんやりと周囲を眺めていた。

昼間の公園は賑やかだ。
小さな子供を見守る親御さん(らしき人)、花壇の手入れをする年輩のボランティア団体、犬の散歩をする初老の夫婦。
太陽の下の公園は明るくて生のエネルギーに溢れている。
…正直、俺には眩しい世界だ。眩しくて、まるで夢のような世界。

日も落ちかけて人も疎らになった頃、ようやく待ち人が現れた。
と言っても、彼は俺に気づかず公園を通りすぎていく。
夕闇に溶け込むような黒い服に着替えた俺は、彼の後を一定の間隔を保ったまま追いかけた。
ポケットにバタフライナイフを忍ばせて。

明るい太陽の下より、一筋の光もない闇夜の方が俺にはお似合いだな。
そんなことを考えながら、彼が人気のない路地に入ったところで俺は気配を殺して彼との距離を詰めていった。

11/23/2023, 11:05:08 AM

Theme:落ちていく

瞼が重い。今にも眠りに落ちてしまいそうだ。
でも、彼女はそんな私の手を強く握り身体を揺する。
どうやら眠らせてくれるつもりはないようだ。

私は彼女を宥めるように、頬に触れて優しく撫でる。
彼女はその手を掴んで首を振る。
「いかないで」
ぽたりと温かい雫が私の頬に落ちる。

どうか、泣かないで。
いずれまた逢えるんだから。遠い未来にではあるけれど。
最期は笑顔で見送ってほしいというのは我儘かな。

やがて眠気に抗えなくなった私は瞼を下ろす。
彼女の声、手に感じる彼女の温もりが段々と遠退いていく。
「また会えるよ」
呟いた言葉は、彼女に届いたのだろうか。

やがて私は、深い深い眠りへと落ちていった。

11/20/2023, 9:11:07 AM

Theme:キャンドル

キャンドルと言えば、私にはずっと不思議に思っていることがある。

誕生日にはケーキに年の数だけキャンドルを立てて、火をつける。
そして、灯された火を誕生日を祝われる本人が吹き消す。
よく見かける光景だが、私はこれが実に不思議だった。

キャンドル…というより蝋燭に灯された火は「命」の象徴というイメージがある。
実際、日本の昔話に『寿命のロウソク』という話があるそうだ。
蝋燭の長さは人間の寿命を表し、燃える炎は人間の命を象徴する。

では、自分がこの世に生を受けた記念日に、なぜ自ら炎を吹き消すのだろうか

調べてみると、誕生日にケーキに立てたキャンドルを吹き消す風習は、13世紀頃のドイツの発祥らしい。
火を吹き消す理由は魔除けのため。当時は『誕生日には悪魔が取りつきやすい』と考えられていたかららしい。
その後、19世紀頃にアメリカで「ケーキにキャンドルを立てて吹き消す」という風習が始まったそうだ。ただ、火を吹き消す意味は『願いを込める』というものに変わっている。
日本の誕生日は、こちらを参考にしているらしい。
キャンドルを立てる風習の最古のものは古代のギリシャにあり、これは月の女神アルテミスへの祀りものだそうだ。祀りものに立っているキャンドルの火から立ち上る煙が空へ昇っていくことで「人々の願いを神々に届ける」という目的があるらしい。ある意味、アメリカでの風習は原点回帰なのかもしれない。

もうひとつ、興味深い風習の違いがあった。それはキャンドルの数だ。
アメリカ(そして日本)では歳の数だけキャンドルを立てるが、ドイツでは歳の数に1本足した本数のキャンドルを立てるそうだ。
新しい命の灯火をもう1本立てる意味まではわからなかったが、非常に興味深い。

年に一度の誕生日。
その日には今までの人生を振り返り、新しく増えたキャンドルに願いを乗せて吹き消してみるのも面白いかもしれない。

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