Theme:鏡の中の自分
「お前なんか生まれて来なければよかったのに」
そう言われ続けて育ってきた。
次男の俺が兄貴を差し置いて、次期当主に選ばれてしまったのだから。
街を歩けば、女性たちが花に群がるように蜜蜂のように群がってくる。
彼女たちの興味は俺自身じゃない。地位、俺に流れる血が欲しいだけだ。
俺はヘラヘラと愛想笑いを振りまき適当にあしらって、その場を後にする。
何も知らない人間から見れば、俺は女好きで軽薄な男に見えるだろう。
鏡は嫌いだ。
愛想笑いと薄っぺらい言動でどんなに取り繕ったところで、そんな虚像を砕いて憎悪に塗れた醜い本性を映し出すから。
鏡の中に映る自分の目には、世界へそして自分への憎悪が込められている。
鏡を叩き割りたくなる衝動を押さえ、俺は鏡から目を反らした。
こんな醜悪な俺は、人に愛される資格も人を愛する資格もないのだろう。
この血が定めた運命のまま、そのうちに適当な相手と政略結婚し子孫を残して、役割を終えて消えていくのみだ。
自分の血に定められた人生を生きる俺は、なんて下らない存在なのだろう。
ずっとそう思って生きてきた。
彼女に出逢うまでは。
~ Imaging Sylvain Jose Gautier (Fire Emblem: Three Houses) ~
Theme:眠りにつく前に
それじゃあ次は私が話す番ですね。
私は都市伝説が好きなので「異世界に行く方法」の紹介と、それを実際に試したという知り合いの話をします。
皆さんは「異世界に行く方法」を知ってますか?
色んな方法が噂されていますが、今回お話しするのは「飽きた」という方法です。
やり方はいたって簡単です。
必要なものは紙とペン、それだけです。
まず、正方形の紙に六芒星を書きます。そして六芒星の真ん中に「飽きた」と書きます。赤いペンを使うと効果が上がるなんて噂もあります。
そして、その紙を枕の下に置いてそのまま眠ります。起きたときにその紙が消えていれば、そこは既に異世界だそうですよ。
これを試したのは私の後輩なんですが、彼は途中でこの儀式をやめてしまったそうです。
彼は眠りにつく前に、白い服を着た女性の姿を見たそうです。彼は恐怖で体がすくんで動けなかったと言います。
その女性は彼が横になっているベッドにゆっくりと近づくと、枕の下に手を入れようとしたそうです。女性の腕の動きが彼の頭を揺らしたとき、彼は体の自由を取り戻してとっさに女性の腕を振り払いました。女性はそのまま消えてしまい、彼女が立っていた位置に「飽きた」と書かれた紙がヒラヒラと落ちていきました。
この出来事ですっかり恐くなってしまった彼は、紙を燃やして朝まで眠れなかったそうです。
そこで彼は思ったそうです。
もし儀式が成功していたら、自分はどのような異世界に行ってしまうことになったのだろうと。あの女性は明らかに生きている人間ではなかった。もしかしたら、彼女は異世界への使者だったのかもしれない。ということは、自分が行くはずだった異世界はもしかしてこの世ではなかったのかもしれないと。
私は都市伝説は大好きですが、安易に実行しないことを強くおすすめします。
たかが噂話と思うかもしれませんが、そのなかに本当に禁忌に触れるものがあるかもしれない。まあ、それを想像するのも楽しいんですけどね。
では、次の方お願いします。
あ、面白い都市伝説を知っている方がいたら、百物語が終わったら教えてくださいね。
Theme:永遠
「永遠の命か…」
古来より、権力者達は不老不死を望んでいたという。
しかし、彼らは永遠の代償まで考えが及んでいたのだろうか。
魔物の手に掛かり事切れた俺を、彼女はこの世に呼び戻してくれた。
自分の命と引き換えにして。
それから俺は、歳をとることもなくなった。浅い傷程度なら、すぐに自然に治癒してしまう。
理から外れた俺は、どうやら人間ではなくなってしまったらしい。
永遠を生きるのは孤独なものだった。
家族も、友も、仲間も。皆、俺を置いて先に逝ってしまう。
寿命で死ぬことのない俺を人々は畏怖し、絆を結ぶことさえできなくなった。
そして、何よりも、彼女のいないこの世界で俺が生き続ける意味はあるのだろうか。
永遠なんていらない。ただ、彼女と同じ理を歩みたかった。
でも、彼女が救ってくれた命を無下に捨てることもできなかった。
永遠を生きるものとして、俺には何ができるのだろう。
皮肉なことに、考える時間はいくらでもある。
当てもない旅を続けながら、俺は今日も永遠の意味を考え続ける。
Theme:理想郷
僕にとっての理想郷か。
キミがいるところならどこでも理想郷だよ。
でも、ひとつワガママを言うなら、僕がいないとキミは生きていけない世界かな。
そうすれば、キミは何処にも行かないもの。
僕の言うことを聞くしかないんだもの。
でも、流石にそんなに都合のいい世界なんてないことはわかってるよ。
だから、少し妥協しようとは思う。
キミは何も喋ってはくれないけれど、温かささえ失われてしまったけれど、これが実現できる精一杯だ。
キミが傍に居てくれる。もう、僕以外の誰も見ることもなければ話すこともできない。
それだけでも十分だ。
愛しい愛しい、僕だけのキミ。
冷たくなってしまったとしても一緒に居られるなら、ここが僕の理想郷だ。
Theme:懐かしく思うこと
死が目前に迫るなか、胸を駆け巡るのは懐かしい思い出たちだ。
騎士の道を志して、剣を取った日。
初めての戦いで、自分が剣を振るう度に倒れていく敵兵たち。仲間を守るため、涙で霞む視界の中でそれでも必死に剣を振るった。
大敗をきした戦い。前夜に隣で笑っていた陽気なアイツも、共に剣に励んだ幼馴染みも次々と倒れていく。悲しみを覚える間もなく、生き残るために必死に戦った。
これが私の人生の懐かしい思い出たちかと思うと、なんだか少し寂しくもある。
しかし、戦いばかりの人生だったが、私に悔いはない。
この人の創る未来のためなら、命を賭しても構わないと思う主に出逢えたのだから。
どうか、泣かないで下さい。我が主よ。
いつか貴方が理想の未来を創りあげるとき、それまでの懐かしい思い出の中に、どうか私のことも置いて下さい。
私はそれだけで、十分です。