ストック

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7/30/2023, 11:07:28 PM

水面のように澄んだキミの瞳が、瞬きもせずに僕を見つめている。
キミは何も言わないが、僕らの間に言葉はいらない。
見つめ合うだけで、僕は満たされる。
この時間が永遠に続いてくれればいいのに。

いや、この時間は永遠に続くんだ。
濁ることのないガラスの瞳。ずっとに僕だけを見つめてくれる。

ああ、ようやくキミの全てを手に入れたよ。
世界が終わるまで、ずっとずっと一緒にいようね。

7/30/2023, 4:39:48 AM

街は今、激しい嵐に見舞われている。
例え嵐が来ようとも、私はあの人のところへ行かないといけない。
だって、それが私の使命だから。


あの人の住む最寄駅へ向かう電車に乗ろうとしたが、嵐の影響で電車は運休。仕方なく3駅分歩くことにした。
自慢のドレスも可愛い靴も雨でびしょ濡れになってしまった。
それでも、私は駅を目指して歩き続ける。

歩くこと2時間、ようやく目当ての駅に着いた。
すっかり濡れ鼠になった私は、携帯を取り出しあの人に駅にいることを告げた。
電話の向こうからは、あの人の驚いたような戸惑ったような間の抜けた声が聞こえてくる。
私はそれ以上話すことなく電話を切った。

あの人の住むマンションに向かう。
しかし、大通りは冠水で通行止め。仕方なく裏道を歩く。
濡れた靴が素足に張りついて気持ちが悪い。
それでも、私はマンションを目指して歩き続ける。

歩くこと30分、ようやくマンションに着いた。
一度靴を脱ぎ中に溜まった水を捨てて、携帯を取り出しあの人にマンションのエントランスにいることを告げた。
電話の向こうからは「え、でも…」とあの人の困ったような声が聞こえてくる。
私は最後まで聞かずに電話を切った。

エントランスに入った私は絶句した。
嵐で停電が発生し、エレベーターが使えない。あの人の部屋は8階だ。
どうしてこんなときに限って…。
思わず涙が流れそうになったが必死で堪えて、薄暗い階段を上っていく。
やり場のない怒りをぶつけるように、1階上るごとにあの人に電話をした。
電話の向こうからは「大丈夫?」「復旧まで待ったら?」とあの人の心底心配そうな声が聞こえてくる。
私はすぐに電話を切った。

ようやく、ようやく辿り着いた。私の目の前にあの人がいる。
初めて電話越しではなく自分の声であの人に告げる。
「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

あの人は振り向かず、腕だけこちらに伸ばした。
手にはふかふかのタオルが握られていた。
「…とりあえず、髪とか拭きなよ」
私は思わず涙を流してしまった。

7/29/2023, 3:00:46 AM

今日は自宅周辺で大きなお祭りが行われる日だ。
夜空を彩る大輪の花火、大きな御神輿とそれを担ぐ活気のある声、かき氷の屋台には行列ができている。最近はコンビニも屋台みたいにビールやジュースを売ってるんだなぁ。

お祭りというと故郷を思い出す。
山の中の小さな村で娯楽なんてほとんどなかったから、お祭りの日が近づくとワクワクして眠れない日が続いていた。

今になって分かったけど、盛大だと思っていた村のお祭りは、外から見たらとてもささやかなものだった。
出店もなかったし、子どもが楽しめるようなものは何もなかった。
それでも、いつもはない活気と、神様へ感謝を表す厳かさ。
子どもながらにその独特の雰囲気を感じて、楽しいような何かすごいものを見ているような感じがして、そんな不思議な雰囲気が好きだった。
友達と夜遅くまで遊んでいられるのも楽しみだったなぁ。

あの頃の友達は、今どうしているんだろう。
両親の住む家にもそろそろ顔を見に行かないと。

でも、故郷の村はもうない。
湖の下で静かに眠っている。

ふと、あの村のお祭りで祀られていた神様はどこへ行ってしまったのだろうと考える。
土着の神様だったから、今でも湖の底で村を護ってくれているんだろうか。

私は両親に会うための休暇を1日多く取ることにした。
今はダムになってしまったけれど、あの村へ行ってお祭りをしてこよう。
神様だって、寂しいかもしれないから。

7/27/2023, 12:35:27 PM

彼女の亡骸に縋りついて嗚咽する俺の前に、神様が舞い降りてきて、こう言った。
「彼女を生き返らせてやってもいい。ただし、彼女はお前に関する記憶を全て失った状態で生き返る。さあ、どうする?」

俺は悩んだ末に、首を横に振った。

彼女の記憶は彼女のものだ。俺が独断でどうこうしていいものではない。
…いや、これはただの言い訳だ。
彼女が俺の記憶を失ってしまうことが耐え難かった。
彼女は生きていても、もうあの頃には戻れない。
俺の中の彼女の記憶が、美しいものから手の届かないものに変わってしまうのは怖かった。
俺は身勝手な人間だ。自分のことしか考えていない。
でも、だとしても、思い出の中までも彼女を失ってしまうことは、耐えられなかった。

いつの間にか、神様の姿は消えていた。
これでよかったという思いと、本当にこれでよかったのかという思いとで俺は引き裂かれそうになる。

「君はどうしてほしかった?」
問いかける声に、答えるものはいなかった。

7/26/2023, 10:44:49 AM

「誰かのためになるならば」
それが貴方の行動原理。
仲間のことを第一に考え、率先して困難な場所に飛び込んでいく。
そんな貴方に敬意をもって「ファーストペンギン」なんて呼ぶ人もいる。

ファーストペンギン。
辞書を引いてみたら『ペンギンの群れの中で、シャチやアザラシなどの天敵がいるかもしれない海へ、最初に飛びこむ1羽の勇敢なペンギンのこと。転じて勇敢な開拓者』だそうだ。

でも、本当のファーストペンギンは違う。
最初に海に飛び込んだわけではなく「群れに海に突き落とされた」ペンギンのことだ。
さも美談のように語られているけれど、その実態は、群れのための生け贄。

「ねえ、貴方の行動原理は利用されてるだけなんじゃないの?」
思いきって聞いてみた。
貴方は笑ってこう返した。
「勇敢な開拓者だろうが生け贄だろうが、誰かのためになるだろう?」

「誰か」の中に貴方自身は含まれていないんだ。

だったら、私が貴方のファーストペンギンになろう。
貴方のためになるならば、私だって勇敢な開拓者でも生け贄でも構わない。
仲間思いの貴方のことは、私がいつも想っているよ。

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