ストック

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街は今、激しい嵐に見舞われている。
例え嵐が来ようとも、私はあの人のところへ行かないといけない。
だって、それが私の使命だから。


あの人の住む最寄駅へ向かう電車に乗ろうとしたが、嵐の影響で電車は運休。仕方なく3駅分歩くことにした。
自慢のドレスも可愛い靴も雨でびしょ濡れになってしまった。
それでも、私は駅を目指して歩き続ける。

歩くこと2時間、ようやく目当ての駅に着いた。
すっかり濡れ鼠になった私は、携帯を取り出しあの人に駅にいることを告げた。
電話の向こうからは、あの人の驚いたような戸惑ったような間の抜けた声が聞こえてくる。
私はそれ以上話すことなく電話を切った。

あの人の住むマンションに向かう。
しかし、大通りは冠水で通行止め。仕方なく裏道を歩く。
濡れた靴が素足に張りついて気持ちが悪い。
それでも、私はマンションを目指して歩き続ける。

歩くこと30分、ようやくマンションに着いた。
一度靴を脱ぎ中に溜まった水を捨てて、携帯を取り出しあの人にマンションのエントランスにいることを告げた。
電話の向こうからは「え、でも…」とあの人の困ったような声が聞こえてくる。
私は最後まで聞かずに電話を切った。

エントランスに入った私は絶句した。
嵐で停電が発生し、エレベーターが使えない。あの人の部屋は8階だ。
どうしてこんなときに限って…。
思わず涙が流れそうになったが必死で堪えて、薄暗い階段を上っていく。
やり場のない怒りをぶつけるように、1階上るごとにあの人に電話をした。
電話の向こうからは「大丈夫?」「復旧まで待ったら?」とあの人の心底心配そうな声が聞こえてくる。
私はすぐに電話を切った。

ようやく、ようやく辿り着いた。私の目の前にあの人がいる。
初めて電話越しではなく自分の声であの人に告げる。
「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

あの人は振り向かず、腕だけこちらに伸ばした。
手にはふかふかのタオルが握られていた。
「…とりあえず、髪とか拭きなよ」
私は思わず涙を流してしまった。

7/30/2023, 4:39:48 AM