ストック

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彼女の亡骸に縋りついて嗚咽する俺の前に、神様が舞い降りてきて、こう言った。
「彼女を生き返らせてやってもいい。ただし、彼女はお前に関する記憶を全て失った状態で生き返る。さあ、どうする?」

俺は悩んだ末に、首を横に振った。

彼女の記憶は彼女のものだ。俺が独断でどうこうしていいものではない。
…いや、これはただの言い訳だ。
彼女が俺の記憶を失ってしまうことが耐え難かった。
彼女は生きていても、もうあの頃には戻れない。
俺の中の彼女の記憶が、美しいものから手の届かないものに変わってしまうのは怖かった。
俺は身勝手な人間だ。自分のことしか考えていない。
でも、だとしても、思い出の中までも彼女を失ってしまうことは、耐えられなかった。

いつの間にか、神様の姿は消えていた。
これでよかったという思いと、本当にこれでよかったのかという思いとで俺は引き裂かれそうになる。

「君はどうしてほしかった?」
問いかける声に、答えるものはいなかった。

7/27/2023, 12:35:27 PM