ストック

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7/21/2023, 9:07:16 AM

私は決して人に自分のファーストネームを呼ばせない。


名前は私が私であることを証明してくれる唯一のもの。
大事なものは軽々しく人に渡してはならない。
だから私は、ファーストネームを誰にも渡さない。

他人から運命をねじ曲げられたとしても、私が私であることには変わりない。
ファーストネームは私が私であることを証明してくれる。


人間不信?そうなのかもしれない。
でも、自分で選んで歩んできたと思っていた人生が、実は他人が仕組んだものだと知ったら、人間なんて、世界なんて、信じられなくなるだろう?
でも、例えそうだとしても、私は私だ。
そう信じていないと、壊れてしまいそうになる。

だから、私はファーストネームを誰にも渡さない。
これが、私が私であることを証明する最後の砦なのだから。

7/19/2023, 11:05:01 AM

私の前を歩く貴方の真っ直ぐな視線を追ってみた。
視線の先には、この上なく優しい世界が見えた。
素敵だな、と私はしばらくその美しい景色を眺めていた。

でも、気づいてしまった。
その優しい世界は、ずっとずっと遠くにあった。
そしてその世界と私たちの間には、無数の棘が生えた茨が道を塞いでいる。
目を落とすと、先を歩く貴方の足には茨が絡みつき、血が流れている。
貴方はそっと茨を掴むと優しく足から外した。手も真っ赤になってしまった。

「この道を進むのは怖いかい?僕が道を作るから、安心してついてくるといい」
痛いはずなのに、貴方はそんな素振りも見せず、私に優しく微笑んだ。

「ううん。私は貴方の隣を歩く」
止めようとする貴方を遮り、私は隣に並ぶ。足に棘が刺さる。痛い。
痛いのは嫌だけど、でも、貴方だけが傷つくのはもっと嫌だ。

私は貴方の手を握る。
「一緒に歩いていこう、見つめる先がどんなに遠くても」

7/18/2023, 12:27:46 PM

ここは私の理想の世界。
真っ青な空には白い雲が浮かんでる。庭にはいろんな花が咲いている。
爽やかな風に乗って聞こえてくるのは小鳥の声。
ここは私の理想の世界。私だけの、理想の世界。
ずっとずっと、私はこの世界で楽しく暮らすの。

ある日、突然貴方が現れた。私の世界に踏み入ってきた。
私は貴方を追い出そうとした。
「出てってよ!ここは私だけの世界なんだから!!」
貴方はそれでも私にずっと話しかけた。どんなに怒鳴っても、無視しても、貴方はずっと私の傍にいた。
もう怒るのも面倒になった私は、貴方のことを放っておいた。

「君は外の世界には行かないのかい?」
「当たり前よ。私はここで幸せなの。どうして外になんか行かなきゃいけないの?」
貴方は寂しそうに微笑んだ。
「だって、君はひとりぼっちじゃないか」
「…それは私が望んだの。もう私は、誰とも会いたくない」
貴方は私の手を取った。
「君は誰にも会いたくないのかもしれないけど、僕は君に会いたいよ」
…そうなんだ。それなら、外に戻るのもいいかもしれないな。


目を覚ますと、私は病院のベッドの上にいた。
貴方は私の手をとって泣いている。
私は貴方の手を握り返した。貴方は驚いたように私を見る。
「ただいま」
私の言葉に貴方は泣きながら「おかえり」と返してくれた。

7/17/2023, 10:50:57 AM

高校生の時、妹と大好きな映画を観に行ったことを思い出す。
財布を握りしめて、30分も電車に乗って、券とジュースとポップコーンを買って、ワクワクしながら席に着く。
もう何回も観た映画だけど、何度観ても始まるまでドキドキしていた。
エンドロールまでしっかり観終わったら一緒に席を立って、電車の中で感動したところ、カッコよかったところ、泣きそうになったところを30分間息もつかずに話し合った。

それから少し経って、私は大学院生、妹は社会人になった。
話す機会は減ってしまったけど、あの映画が都心でリバイバル上映されることを知った。
それからは電車の経路を調べたり、映画館までの道順を調べたり、当時の思い出話をしたり、久しぶりに妹と話す時間ができた。
精一杯のお洒落な服を着て、1時間半も電車に乗って、都心の喫茶店のコーヒーの値段にビックリして、券とジュースとポップコーンを買って、ワクワクしながら席に着く。
久しぶりに観たあの映画は、私たちをあっという間に高校生に戻した。
エンドロールまでしっかり観終わったら一緒に席を立って、電車の中で感動したところ、カッコよかったところ、泣きそうになったところ、そして昔の思い出を1時間半息もつかずに話し合った。

更に時が経って、私は独りで生きていくことを選び、妹はパートナーと家庭を持つことを選んだ。
話す機会はほとんどなくなってしまったけど、あの映画が周年記念に都心で上映されることを知った。
どこの映画館に観に行こうか、ランチは何を食べようかと、1年近く振りにLINEでやり取りをすることができた。
お気に入りの鞄をもって、すっかり慣れた地下鉄に乗って、ランチを楽しみながら近況報告をして、券とジュースとポップコーンを買って、ワクワクしながら席に着く。
十数年振りに観たあの映画は、私たちをあっという間に高校生に戻した。
エンドロールまでしっかり観終わったら一緒に席を立って「俳優さんも、私たちも、歳とったね」とのんびり話しながら駅で別れた。

無邪気に過ごしていたあの日々は遠い日になってしまったけど、あの映画が繋いでくれなくても、妹とまた屈託なく話せる日が来ればいいな。

7/17/2023, 3:31:29 AM

「空を見上げるなんて、久しぶりだなぁ」
まず、そんな気持ちが浮かんだ。

いつもなんとなく視界には入っている空を「見よう」と思って見上げたのは随分と久しぶりな気がする。

そういえば、最後に空を見上げたのはいつだっけ。
スーパームーンが見える日だったかな。それとも皆既月食の日かも。あるいは久しぶりに実家に帰って普段は見えない星空を見るためだっけ。
いずれにしても、いつかの夜だったな。

夜の空は好きだ。
日によって形を変える月。街灯にかき消されそうになりながらも仄かに光る星。
そして月と星を描く黒とも違うキャンバスのような暗い空。
今日も1日が終わったことを実感して、安心する。

朝の空は眩しい。眩しすぎる。
気持ちと相反しすぎて、眩しすぎると思うのかもしれない。
いつか、朝の空も綺麗だなと素直に思える日が来るといいな。

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