ストック

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高校生の時、妹と大好きな映画を観に行ったことを思い出す。
財布を握りしめて、30分も電車に乗って、券とジュースとポップコーンを買って、ワクワクしながら席に着く。
もう何回も観た映画だけど、何度観ても始まるまでドキドキしていた。
エンドロールまでしっかり観終わったら一緒に席を立って、電車の中で感動したところ、カッコよかったところ、泣きそうになったところを30分間息もつかずに話し合った。

それから少し経って、私は大学院生、妹は社会人になった。
話す機会は減ってしまったけど、あの映画が都心でリバイバル上映されることを知った。
それからは電車の経路を調べたり、映画館までの道順を調べたり、当時の思い出話をしたり、久しぶりに妹と話す時間ができた。
精一杯のお洒落な服を着て、1時間半も電車に乗って、都心の喫茶店のコーヒーの値段にビックリして、券とジュースとポップコーンを買って、ワクワクしながら席に着く。
久しぶりに観たあの映画は、私たちをあっという間に高校生に戻した。
エンドロールまでしっかり観終わったら一緒に席を立って、電車の中で感動したところ、カッコよかったところ、泣きそうになったところ、そして昔の思い出を1時間半息もつかずに話し合った。

更に時が経って、私は独りで生きていくことを選び、妹はパートナーと家庭を持つことを選んだ。
話す機会はほとんどなくなってしまったけど、あの映画が周年記念に都心で上映されることを知った。
どこの映画館に観に行こうか、ランチは何を食べようかと、1年近く振りにLINEでやり取りをすることができた。
お気に入りの鞄をもって、すっかり慣れた地下鉄に乗って、ランチを楽しみながら近況報告をして、券とジュースとポップコーンを買って、ワクワクしながら席に着く。
十数年振りに観たあの映画は、私たちをあっという間に高校生に戻した。
エンドロールまでしっかり観終わったら一緒に席を立って「俳優さんも、私たちも、歳とったね」とのんびり話しながら駅で別れた。

無邪気に過ごしていたあの日々は遠い日になってしまったけど、あの映画が繋いでくれなくても、妹とまた屈託なく話せる日が来ればいいな。

7/17/2023, 10:50:57 AM