1日の始まりは笑顔で挨拶。
笑顔を絶やさずに周囲に気を配り、困っている人がいれば何をおいても手を差し伸べる。
仕事が始まったら、どんなことでも全力で責任感をもって行う。
言われた通りの成果を出せたらまあ及第点。+αの提案や丁寧さ、早さで上司や同僚に喜んで貰えたら100点満点。でも、周囲が手伝ってくれたからこその成果だと感謝の気持ちを決して忘れてはいけない。
周囲には感謝を。自分には向上心を。
トラブルや失敗があったら、1%でも自分に責があるのならそれは全て自分のせい。謝罪し、善後策を行って、再発防止策を考えて確実に実行する。周囲の責任なんて考えちゃダメ。もし本当に周囲に原因があるんだとしたら、それは原因を見逃していた私の責任。
失敗を他人のせいにしてはいけない。自分に非がないなんて絶対にあり得ないんだから。
会議では何より皆が意見を言いやすくし、皆が納得できるような場を作ることが私の仕事。発言できない・していない人がいないか常にチェックしながら皆の意見を整理する。意見が割れるなら、両者の言い分を聞いて「絶対に外せないところ」を見つけてそれを擦り合わせて落としどころにする。合意が取れたらすぐ議事録を作る。
私の意見を言う暇なんてないけど、皆が満足するならそれでいい。
これが私の当たり前だった。
でも、今は違う。
ないがしろにしてごめんなさい、過去の私。
自分の意見があれば言ってね。自分ができたことを誇ってね。
あなたは十分に頑張っている。私はそれを誰よりも知っているよ。
電車に揺られながら何となく窓の外を見ていると、眠らない繁華街の明かりが夜を眩しく照らしている。
あの光のなかで、たくさんの人、たくさんの想いが蠢いているのだろう。
賑やかなところが苦手な私は、思わずため息をついてしまう。
電車は大きな街から離れていく。ベッドタウンの明かりは地上に落ちた星のように夜に静かに浮かんでいる。
あの光のなかで、いろいろな家庭が団欒の時間を過ごしているのだろうか。
独り暮らしの私は、少し羨ましく思う。
電車はベッドタウンから離れていく。郊外の町の明かりはほとんど落ちて、代わりに星が夜を優しく照らしている。
町はもう眠りについたようだ。町も夢をみるのだろうか。
寝付きの悪い私は、いい夢をみてるといいなと思う。
電車は目的の駅に着き、私は下車して歩きだす。
郊外から更に離れた町は、灯りがすっかり落ちている。
私の家に灯りが着いても、あの電車からは見えないだろうな。ふとそんな考えがよぎる。
少し寂しい気もするが、大勢の目に留まらなくても私がこの光で満たされていればいい。
強がりな私は、そうやって寂しさを押し殺す。
「年にたった1日だけ、それも天の川を挟んでしか逢えないなんて、なんだか寂しい」
私がそう言うと、貴方は穏やかに言う。
「その1日のために残りの364日を一生懸命生きるのも、僕は素敵だと思うけどな」
私はまだ食い下がる。
「でも、その1日も触れ合ったりは出来ないんだよ。やっぱり寂しいよ」
貴方は少し沈黙した後、静かに言う。
「たとえ触れることが叶わなくても、顔を見られるなら僕はそれで満足だ。大好きな人が同じ空の下に生きてる。それを実感できるだけでも、十分に幸せだよ」
「欲がないんだね」と私が言うと、貴方は笑って言う。
「だって、大好きな人が同じ空の下に生きてること自体、それだけで奇跡だと僕は思うよ」
二度と会えない人の話をするとき、人はこんなに悲しい顔をするんだと私ははじめて知った。
貴方と別れた後、私は商店街の片隅に置かれた笹飾りに短冊を結びつけた。
「いずれ、貴方が星空の元へ還ったときには、貴方の大切な人と再会できますように」
織姫と彦星。
たった1日だけの対面だけども、どうか今年も会えたことを喜んでいてほしいな。
顔を上げると満天の星空。
「星が降るような」なんて表現を何かの小説で見たことがあったけど、本当に今にも光の欠片が降ってきそうだ。
君も同じことを思ったのか「もしあの星が雨みたいに降ってきたら、光のなかに埋まっちゃいそうだね」とクスクスと笑いながら言う。
「君と一緒なら、それもいいかもね」僕も笑ってそう返す。
真っ白な花が咲き乱れる花畑。まるでここは地上の星空のようだ。
君と僕はそのなかで隣で仰向けになって寝そべっている。
薄く甘い花の香りに、眠気が増してくる。
「ねえ、星になっても、一緒にいられるよね?」
どこかぼんやりとした声で君が言う。
僕は君の手を握る。視界がだんだん暗くなる。
「もちろんだよ。ずっと一緒にいられるように、僕たちは今ここにいるんだから」
君は無言で僕の手を握り返す。
意識が消えるそのとき、本当に星が降ってくるのが見えた。
「どうか君と永遠に一緒にいられますように」
ああ、3回願いを言う余裕はなかったな。
運命はあるのだろうか。
ある人は運命はあると言う。
自分の力ではどうしようもないものは、すべて運命によって決まっていると。
だから、抗わずに流れに身を任せているのが一番いいと。
別の人は運命はないという。
世界はそもそも理不尽なもの。運命などではなく、それが世界の真実だと。
だから、阻むものを排除し自分の正義を貫くべきだと。
運命があるのかないのか、正解なんてきっとないのだろう。
たぶん、運命は旗印のようなものではないかと私は考えている。
これも数ある考えの中のたったひとつに過ぎない。
答えはおそらく神様だけが知っている。
答えを聞くことができればいいのにね。