#太陽
どちらかと言えば、太陽が嫌いだ。特に、夏の太陽。暑苦しくて体調が悪くなる。
早々に熱を上げた僕。うーんうーんと言いながら、窓の外を見ようとしたら、太陽の光が入ってきた。
ギラギラと光る太陽がダメージを与えてきて、近くにあったビニール袋にゲロを吐いた。
「……メンタルクリニックの先生も、なるべく朝の太陽を浴びようねって言ってたけど、夏だけは無理だよ……無理、気持ち悪い……」
独り言を吐いて、溜息をついた。
僕の部屋は、今日も暗い。
まるでギラギラ輝く外とは、別世界みたいだ。
解熱剤と睡眠剤を飲んで、布団に潜る。こうやって、夏が過ぎるのを待っているのだ。
#明日、もし晴れたら
アパートを借りて、一人暮らし。フリーランスで動画編集だったり、ウェブライターを請け負ったりしている。
「──当分の間、雨は続くでしょう」
テレビから聞こえてくるアナウンサーの声。
もはや聞き慣れた言葉だ。台風が来ている様子もないし、特に変わったことはない。ただ、これが『地球温暖化の影響』であれば、納得のいく話だ。
人間がもたらした悲劇。
その事実すら目を逸らすのだから、どうしようもない。
息抜きに背伸びをして、白いカーテンを開ける。ザーザーと鳴る雨、強い風とともに、窓を叩いている。
道路の様子を見てみると、コンクリートの道路は隠れていて、代わりに見えるのは船を漕いで出勤をする会社員。毎日、雨との戦いで疲れているはずなのに、彼らは今日も仕事へ行く。
『今日』が始まった、と感じる瞬間だ。
──僕は、雨の音を聴いている。
ノートパソコンを開いて、ひたすら文字を打つ。
これは日記だ。僕の、大切な人へ向けた日記。ここに来る確証も無いのに、君の言葉を信じている。
『明日、もし晴れたら、一緒にお出かけしようね』
君の笑顔が眩しかった。
まるで『太陽』のような温かさを持っている。
そんな彼女が来なくなったのは、雨が続いてからだ。
明日、もし晴れたら。
僕と一緒に、お出かけしてくれるのかな。
期待半分、諦め半分でいる。
また会いたいな。
そう思って、今日もてるてる坊主を作るのだ。
#だから、一人でいたい。
邪魔な奴は、殺す。
たった、それだけだった。
俺にとって、誰かと一緒にいることは、俺という人格丸ごと否定された気分になるのだから。仕方がない。
多分、人として生きるのが向いていない。
手に握り締めた包丁を、先程殺した男の首に押しつけて、横にスライドするように斬る。すると、ブシュッ、という音を立てて、血が吹き出してきた。
顔に、手に、汚らわしい血がついた。
「悪いのは、お前。俺じゃない。関わろうとしたお前が悪いんだよ。もう、こんなの、懲り懲り……」
涙なのか、男の血なのか、もはや分からない。
ボタボタと流れた赤い液体を眺めながら、フラフラと立ち上がる。
歩く度に、床に散らばった血の海が、波を立てる。
何人殺したか、もう覚えていない。
嫌だと思った瞬間に斬りつけてしまっているから、気づいた時には誰もいない。
そんな人生、誰が望んで選ぶかよ。
生気のない男の目を見て、
「俺に関わるな。二度とな」
と言って、部屋を出る。
胸が苦しい。息ができない。
頭が痛い。体中から汗が吹き出してくる。
足の痙攣が収まらず、部屋の扉の前で座り込んだ。
涙が出てきた。
つらい。
こんなはずじゃなかった。
いつも、俺と関わる人達は、皆死んでいく。
跡形もなく、虚ろな目と死体だけを残して──
『邪魔』と言う度に、
俺の中にある『正義』が声を上げる。
「お前は一人でいい。一人がいいんだ」と。
周りがどう言おうが、俺と関われぱ死ぬ運命。
ならば、俺自身が死ぬか、人と関わらなければいいだけの話。二度と犠牲者を出さないようにする為にも、俺は俺なりの努力をしていかなければならない。
まずは『独り立ち』。
自分の身近なところから整えていく。
そこから自分なりの幸せを見つけていく。
幸せを見つけるために、独りになる。
だから、一人でいたいんだ。
君の澄んだ瞳は、何を映しているのだろうか。
遠い未来なのか。
それとも、過去の思い出を振り返っているのか。
君自身が何を考えているのか分からない。
何を求めていて、何が欲しいのか。
一体何処を目指しているのか……。
僕なんかが埋めることができる事なのだろうか。
考えれば考えるほど、分からなくなる。それが「恋愛感情」というものであれば、二度としたくない。君で終わりにしたい。
一緒の部屋にいても、モヤモヤした気持ちが湧き上がってくる。体育座りをして、両膝に顔を埋める。
君は優しく背中をさすってくれた。
「君がどこか遠くに行きそうで、怖いよ」
「うん」
「何処にもいかないで。ずっと、僕の側にいて」
「分かってる」
「約束だからね?」
「うん、約束守るよ」
「ありがとう」
君は、幸せそうに笑う。
その笑顔を守りたいから、君を離したくないんだ。
──その次の日、彼女は死んだ。
部屋のドアノブで、縄を首にかけて自殺を選んだ。
もがき苦しんだ瞳には生気が無い。だが、その瞳に映るのは、僕のすがた。思わず、ぎゅ、と抱きしめる。
すると、突然知らない女の声が聞こえてきた。
「あんたのせいよ」
そう言って、女が勢いよく何か硬いものを振り下ろすと、僕の頭に直撃した途端に、血が流れた。尋常ではない量だ。
慌てて振り返るが、そこには誰もいない。
代わりに置いてあったものは、僕が仕事で使っていたハンマーだった。
世界が歪んで見えてきた。
ぐらり。
ああ、最期に君を……。
そう思い、倒れる寸前に君を見ると、涙を流しながらも、ほんの少し微笑んでいた。
殺意と憎しみに溢れた瞳も、どこか澄んでいるような、清々しさを感じた。不思議な感覚だ。
「僕、の、せい、だっ、たん、だ、ね。……ごめん、ね」
もう限界だ。
目を閉じると、二度と戻れない。
だけど、それでいいと思った。
彼女が直々に手を下してくれたのだから、満足している。
君の瞳に会えるまで、サヨウナラ──。
「おまつり、いこうよ」
「……いやだ。いかない」
「なんで? だれかといけば、たのしいよ!」
「じゃあ、べつのだれかといけばいいじゃん。ぼくじゃなくてもいいでしょ」
「よくない」
「なんで?」
──だって、好きだもん。
なんて言えるわけが無くて、俯いてしまう。
彼は溜息をついて、私の手を引いた。
顔をあげると、彼はこちらを見ずに、こう言った。
「さみしいなら、さみしいって、ちゃんと言いなよ」
「で、でも、さっきいかないって」
「……じょうだん、だよ。分かるでしょ」
「!」
そっか、そっか。
私は嬉しくなって、ニコニコ笑った。
「すなおじゃないんだね」
「うるさい」
「えへへ、おまつり、たのしみだなぁ!」
「……うん、そうだね」
困り顔の彼が可愛くて、ニコニコ笑った私。
文句言いながらも、つき合ってくれるのが大好きだなぁ。
本人に言うのは、緊張しちゃうけど、絶対付き合ってやるんだから!という気持ちが出てきた。