君の澄んだ瞳は、何を映しているのだろうか。
遠い未来なのか。
それとも、過去の思い出を振り返っているのか。
君自身が何を考えているのか分からない。
何を求めていて、何が欲しいのか。
一体何処を目指しているのか……。
僕なんかが埋めることができる事なのだろうか。
考えれば考えるほど、分からなくなる。それが「恋愛感情」というものであれば、二度としたくない。君で終わりにしたい。
一緒の部屋にいても、モヤモヤした気持ちが湧き上がってくる。体育座りをして、両膝に顔を埋める。
君は優しく背中をさすってくれた。
「君がどこか遠くに行きそうで、怖いよ」
「うん」
「何処にもいかないで。ずっと、僕の側にいて」
「分かってる」
「約束だからね?」
「うん、約束守るよ」
「ありがとう」
君は、幸せそうに笑う。
その笑顔を守りたいから、君を離したくないんだ。
──その次の日、彼女は死んだ。
部屋のドアノブで、縄を首にかけて自殺を選んだ。
もがき苦しんだ瞳には生気が無い。だが、その瞳に映るのは、僕のすがた。思わず、ぎゅ、と抱きしめる。
すると、突然知らない女の声が聞こえてきた。
「あんたのせいよ」
そう言って、女が勢いよく何か硬いものを振り下ろすと、僕の頭に直撃した途端に、血が流れた。尋常ではない量だ。
慌てて振り返るが、そこには誰もいない。
代わりに置いてあったものは、僕が仕事で使っていたハンマーだった。
世界が歪んで見えてきた。
ぐらり。
ああ、最期に君を……。
そう思い、倒れる寸前に君を見ると、涙を流しながらも、ほんの少し微笑んでいた。
殺意と憎しみに溢れた瞳も、どこか澄んでいるような、清々しさを感じた。不思議な感覚だ。
「僕、の、せい、だっ、たん、だ、ね。……ごめん、ね」
もう限界だ。
目を閉じると、二度と戻れない。
だけど、それでいいと思った。
彼女が直々に手を下してくれたのだから、満足している。
君の瞳に会えるまで、サヨウナラ──。
7/31/2022, 8:10:43 AM