hashiba

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4/9/2024, 1:15:45 AM

人生を一日で例えたら、今は何時頃だろうか。ソファに寝転がったまま、彼はふとそんなことを尋ねた。二人していい歳だ。寿命から考えればおおよそ折り返し地点か、そこも既に過ぎてしまったか。仮に朝を一日の始まりとすれば、そろそろ夜になるくらいかもしれない。そう答えたら「長いな、夜」とボソリと呟いた。それは、そうだ。今は電気があるから余計にね、と例え話をしながら彼の元へと歩み寄る。残り短くて長い夜を、こうして一緒に過ごしてくれるか確かめるために。


(題:これからも、ずっと)

4/8/2024, 2:58:01 AM

日中降り続いた雨は、仕事を終えて帰る頃にはすっかり止んでいた。雲もあらかた捌けて風が冷たい。ここから夜はさらに冷えることだろう。今更になって顔を出し、そしてまた消えようとする太陽が少しだけ憎い。ため息をついたら不意に隣から「今日は鍋にしますか」と提案が。鍋。それなら寒い夜も悪くはない。スーパーに寄って、それからこの人と一緒の家に帰ろう。用済みの傘を二本提げ、暗くならないうちにと歩き始めた。


(題:沈む夕日)

4/7/2024, 6:34:12 AM

物言いたげにじっとこちらを見ている。他人を気にしない彼が他人と目を合わせるなんて、何かを伝えたいとき、または何かを疑っているときだけだ。さて恋人の自分に一体何を疑っているのか。どうした、と声をかけて回答を促す。時間にして約十秒。おもむろに頬を染めて「何でもない」と逃げようとするから思わず笑ってしまった。なるほど、前者だったか。せっかくだから捕まえて問いただすことにした。


(題:君の目を見つめると)

4/6/2024, 2:20:51 AM

煙草なんて珍しい。この夜更けにどこへ行ったのかと探してみれば、その人は窓辺で空を眺めて煙を吹かせていた。眠れないのか、考え事でもしているのか。その背中は窓枠に寄りかかり小さく丸まっている。初めて見る姿だった。勝手にどこか遠くへ行ったような気がしたが、それでもまだ星よりは余程近い。名を呼び、その背に触れようと静かに足を踏み出す。細い煙がわずかに揺れる。風のない夜だった。


(題:星空の下で)

4/5/2024, 12:57:55 AM

まめではあるが、とにかく忙しい人である。定時を過ぎて久しいというのに既読がつかなかった。今日はもう期待できないだろう、大丈夫、明日連絡できればそれで、なんて諦めかけていたところに彼からの着信。他愛ない二言三言の会話。だけどこれは反則だ。このタイミングで声まで聞いたら駄目になるだろう。再び沈黙したスマホからタクシーアプリを呼び出す。火照った顔がおさまらない。このままで終わらせていいわけがない。


(題:それでいい)

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