自分は今度、転勤で東京に行く事になって
徐々に支度を整えている
早朝 近所のおじさんが散歩に出るところに出会して
幼少時代から自分のことを
よく見てもらって居た方なので転勤のご挨拶をしようと
声をかけると
おじさん
「おはようさん
なあ、にいちゃんはさ 神様っておると思うか」
自分「居ますよ きっと ところで…」
おじさん「転勤やろ?」
自分「え なんで」
おじさん「お前の神様が言うとったわ」
自分「あ…」
おじさん「まあ元気でな! 笑」
自分「家内ですか…」
おじさん「そうやあ〜 カミサマやぁ〜
大事にせーへんとあかへんで
カミサマだけしか知らんへそくりもあったりしてなあ」
自分「いつも家内共々お世話になって
ありがとうございました おじさんも元気で」
おじさん「わしゃもう年やからな」
自分「またまたー」
おじさん「散歩に行くのに邪魔せんといてー」
自分「あはは すみません また!」
おじさん「ほななぁ」
路地から抜けて裏通りを歩き
僕は小さな雑居ビルに入った
ここで僕たちは、小さく
何でも屋を営んでいる
ある日
オロオロとした様子のご婦人がやって来た
なんでも
猫を探して欲しいという
写真を数枚見せていただいた
オッドアイの白い美猫だ
誰かに誘拐されたんじゃないか
そんなことも話して居た
探しましょう
そういう事となった
先ずご婦人が住む自宅付近から
公園、学校付近
河原、公園付近の小さな林の中
犬の散歩する人などは見かけるものの
野良猫さえ見つからない
数日探し回り
焦りが出て来た
と
地図にない道を見つけ
車から降りると
細い道を歩き出した
両隣は閑静な住宅街である
雨が降り出す予報は外れることも無く
予定通り降り出した
僕はカッパを着て
道の隅々までじっと見ながら
ゆっくりと歩く
この道の先に小さな社と大木が見えた
こんな場所もあるんだな
などと見回しながら
社に手を合わせる
大木の上の方から
にゃあ
小さな声がした
あ!!
件のオッドアイの白い猫が
木の上で爪を研いでいた
降りられずに困っているようだったので
僕は車に一旦戻ると
ハシゴと網をとって来て
無事捕まえる事ができた
この社は
ご婦人の自宅から5キロも先の
場所だった
ご婦人は大層喜び
折り詰めまでいただいた
僕は久しぶりに
雑居ビルの真向いにある
こぢんまりとした
喫茶店で
お茶を飲んで
一息落ち着いた
-先生の憂鬱-
あれからどれほどの人が
戦争に駆り出されただろう
僕はとある小学校一年の講師を
担当させてもらっている
しがない学校の先生で、名はミタカと言う
今年で24になる
第三次世界大戦に於いては日本も巻き込まれて
ただでさえ少ない青年少女達が戦地に
赴くという
試練の時代である
僕は生まれつき虚弱体質で
考え過ぎると倒れてしまう
普通の生活がやっとという障害者のため
戦争に参加できない
失格者の位置付けがなされた
小学一年生では、図工の代わりに
プログラミングの授業が追加された
2040年、国の制定により
各学校は他国のサイバー攻撃から
子供達が自らで身を守るように
基礎防壁チップの入ったスマホを
支給する事になった。そのスマホを
学習の為、教材としても
扱うのである
まず子供達は配られたスマホと自分の
ナンバーを照合し自分のナンバーのスマホを
手にすると僕の授業で
基礎防壁チップの強化から
アップデートの仕方、基盤の改変方法など
覚えて行く。バックアップしながら授業を進め
体育では、他の講師と共に
災害時(敵軍の侵略時)からの
身の守り方と少数サッカーでチーム適性力と
マインドフルネスによる呼吸法で
落ち着き方を覚えさせている
低学年中学年で
マインドフルネスのマスターをさせて
プログラミングでの期末試験合格者に
自分の家のネットワーク防壁を作らせ
上級生にそれをアップデートさせたり
新たな防壁の開発をさせている
4年生、この時期になってくると
サイバー攻撃の仕方を知りたい学生が急増する
僕は戦地には赴けなかった分、学生達に
戦地に赴かせる授業をする事が
僕の心の澱となり
心痛で頭痛が絶えない今日この頃だ
講師を辞することも考えて
しかし、まだ働いている
この戦争で各国は大きな金の動きがある為
ロシアとアメリカとフランスが大々的に動き
歪み合い
戦争をやめないでいるのだ
人口の少ない日本は
しかしながら僕らのプログラムする
サイバーAIの人口で他の追随を許さず
アメリカの後ろ盾となって働いている
国々は肉弾戦に限っては傭兵を取り合いながら
ほぼサイバー領域での戦争を続けていて
近年は核AIの発動も辞さないとアメリカが
主張し出した
核AIというのは
米日のプログラマーチームが開発した
ひとつの国の
全ての電源が落とされてしまう大停電AIと
あらゆる電子機器の内部の基盤が焼かれ
2度と使い物にならなくなる
電子機器キラーAIが搭載されており大規模かつ
復旧にはおよそ
290日間もかかると言われる
核AIシステムである
これが使われた国は
想像するより早く大混乱が避けられないだろう
今の時代、公共交通機関、車、室内設備、施設
ほぼ全てが電気で賄われている
亡命しなければならない人で溢れかえることが
予想に難くない
戦争は本当に怖い
僕は最近
幼少期を思い起こしている
懐かしいまだ平和な頃
僕は絵を描くのに夢中だった
あの頃…
死んだじいちゃんや
ばあちゃんに
会いたい
暑い陽射しを浴びて
渓流で泳ぎ
スイカを食べて
風鈴の音色に耳をそば立てて
キャンプの傍ら
河原で絵を描きたい
魚が泳ぐのを見たい
僕はまた背伸びをして
次の授業の支度をする
了
10年前のこの病棟
この部屋で私は看護師のイトウさんから
時期が来たら
付き合おう。
と言われ
当時彼氏が居た私は
ありがとう。
と返事して居た
冬の日の出来事だった
あれから10年
また同じ病院に入院する事になった私は
もう当時の彼氏とは別れて
1人になって居た
若い日を思い出し
苦笑する
何と無く病室の窓の外を見やる
雨が風に煽られ窓を叩いている
(あの人は、今はどこに居るんだろう。)
懐かしい気持ちと
今のほろ苦い気持ちで複雑な心境だ
コーヒーを飲む。
窓ガラスに映る自分の顔がやけに老けて見えた
考え込むと眉間に皺を寄せてしまうせいか、
(とっくの昔に、結婚して
幸せで居てくれてるといいな…)
窓越しに見える大きなハナミズキの木が
雨に濡れている
私は不治の病で
今回は一時的な病気の悪化
10年の月日を経て
今こうして2回目の入院に至る
もうすぐ入院してから一年を迎える
いろんな人に出会い
様々なことを教わり
人の退院を見送り
そうして繰り返す日々に
多少は慣れてきたことと思う。
1年前の自分は
酷い暮らしっぷりだったなぁ
入院してすっかり
前の自分を他人事のように見て居た。
もう
退院まであと少し
出逢い、別れて
それはセットになっているから
誰にでもある
特別な事
日常に隠れる
特別な出来事
出逢い、別れて
また出逢う
この繰り返しで人は成長するのかもしれない
両親は元気にしているだろうか、
久しぶりに父さんに
電話をかけてみよう
父さん、喜ぶかな
了
赤い糸-天使と悪魔-
寝ていたのか、目を覚ますと
白い布団で寝ていたようだった
幻覚だろうか?
天井からニュッと
大きな蛇が頭をもたげて
こちらを見下ろしている
「生きたいか?」
と訊かれる
幻聴だろうか、母や父の声が聞こえてくる
(目を覚ましな‼︎ジュンコ‼︎…ジュンコ‼︎)
(ねえちゃん、なんでだよ…)
弟の声だ。懐かしい
久しく弟には会っていなかった。
何があったのか分からない
声に気を取られていたが
気付くと蛇が大きな口を
カアッと開けて
今にも私を頭から飲み込もうとしている。
私は、咄嗟に
「い、生き、生きたい!」
と、小さく叫んだ
蛇の血生臭く生暖かい息が
ふあっと顔にかかり
思わず顔を背ける
蛇のよだれが肩にダランと垂れた
「早う、それを言え。」
蛇は言うと私から離れた
「本当にとんでも無いやつだよ、お前は。」
蛇は言うと
私がキョトンとしているのを見て
唖然とした様子で
「お前は一度死んでおるのだ、俺が喰らって
お前は生まれ直す予定なのだよ。
俺はヤマタノオロチだ。」
ヤマタノオロチはそう言うや否や
あんぐりと口を開けた。
ー気付くと四角い小さな窓のある
白い壁の6畳ほどの部屋に倒れていた。
立ち上がろうとすると眩暈がして
私は立ち上がることができないで居た
暑い。
部屋の窓に誰かが覗き込んだ。
「ガブリエルと言う。覚えなくてもいい」
よく見やると、白い羽が生えている。
…天使?
「お前は、魔物の子か?」
ガブリエルが訊いてくる
「訳がわかりません。」
私は正直に言うと
「メタトロンからマモンの再来があると聞いて
出向いてきたのだ。」
と言う
「正直に言え。魔物の子がこのまま地上に生まれ
落ちると地上に禍いが訪れる。未然に防がねば
ならんのだ。
今は天使と悪魔の戦闘の時代だ。
こんな時期の地上に
お前が降って来ようとしているのだ。
もう少しで大気圏突入だ。
正直なことを言え。そこで目が覚める前に
お前に何があったのだ」
私「蛇に喰われ…」
ガブリエル
「魔物の子じゃないか‼︎」
私「嘘!?」
ガブリエル
「何が嘘なものか。蛇と人間の子はいかん!
悪いがここで…」
ガブリエルが光る矢を構えた
私「ややヤマタのオロチに喰われ…」
ガブリエル
「何?あの神だと!まだ元気なのかあいつ…!?
我々がこの部屋を地上まで守る。お前が
地上に降りるまで悪魔から守るからな!
お前は突如として我らの救世主になったのだ」
訳がわからない。
ガブリエル
「お前はこの部屋ごと
地球の引力で今大気圏を越えて重力で
落下しているところだ。
現に立ち上がることができないし身体の自由も効くまい
お前の名はジュンコだ。
ジュンコ、地上に無事降りたら
我らのひとまずの任務は達成する
天からのジュンコがここに居るとなると
もう1人のジュンコ、魔物の子はどこだ…
メタトロンによると
ジュンコは2人対で生まれることになっていて
もう1人は魔物の子だと言うことだ。
皆で探し回っていて
悪魔の手に渡る前に見付けなければならない。
それはジュンコ、お前の使命でもある。
対決出来るのは、お前だけだ!」
窓の外が何か騒がしくなった
他にも天使が来ているらしい。
ガブリエル
「どうやら自害した母親からひとりでに生まれ
部屋を出て行った赤子がいるらしい。
魔物の子だとの情報だ。
ヤマタノオロチの子よ、
我々と共に戦うのだ!」
ガブリエルはそう言うと
燃える槍をこちらに向けた。
部屋の暑さと眩暈によって
倒れて動けないまま目が回り
私は目を閉じた。
しばらくの間
夢なのか白昼夢なのか
光の中を漂って居た
ハッと我に返ると
暗い部屋
畳の上で人が血の海に倒れているのを
見下ろして居た。
(あれ?この場面ってもしかして例の天使が言ってた…?)
産まれた赤ん坊が泣きもせず
今まさに歩こうとしているところだった。
思わず
光の中から私は
赤ん坊を抱きしめた
私「1人きりで怖かったね。一緒に生まれようね」
魔物のジュンコ (…アタタカイネ、アリガトウ)
そうして天使と悪魔の間に
神様が赤い糸で結んだ
2人で、1人となって
「人」として、また
生まれ直した私は
今
ここにいる。
了