佐久夜の手記

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9/13/2021, 12:47:10 PM

1929年を生き、死んだ
狂人が見た夜明けの空を
明朝の私もまた、見上げるのだろう

木曽路はすべて山の中である
であれば、私はどうだろう
我が身体はすべて文明の中である、だろうか
愚かしい! 響く哄笑の虚しさよ

かの狂人は狂人であったが
生まれながらの狂人などではなかった
私はどうだ、どうなのだ?
私が私である自信はどこだ?
私が狂人でない確証はどこだ?

愚かしい! 響く哄笑の虚ろさよ
私は狂人なのか、そうでないのか
我が身体はすべて文明の中である
明朝の私に、夜明けは訪れてくれるのか

9/12/2021, 12:49:53 PM

身を焼くような
胸を焦がすような
心を締め付けるような
それでいて多幸感に包まれるような
そんな一見美しい衝動を、人は
本気の恋と呼ぶらしい

であれば私は
本気の恋はしたくない
私が私でなくなるその感情を
味わいたいとは思わない

その感情は美しいか?
奇跡か?大切か?ありふれているか?

私は嫌いだ 本気の恋というものが
かつて私を傷つけたその刃を
己が手に持つなどあり得ない

私に向けられたその感情に
不快以外、なんと名を付ければいい?
恋とはなんだ、その激情はなんだ
その目はなんだ、言葉はなんだ
お前にとって私とはなんだ
その衝動を向けるに足るものか

私は嫌いだ 本気の恋というものが
私を切ったその刃が ただただ恨めしいのだから

9/11/2021, 10:58:25 AM

そっとカレンダーを捲くる
なにもない。なにもない。
白紙のカレンダーを眺める
なにもない。なにもない。

そこにあるのは、なんだろう
可能性だろうか、いいや、違う
そこにはなにもない
空虚。空虚だ。
私という生き物が
そう遠くない未来に味わう空虚が
首をもたげている
けれどもそこにはなにもない。

9/10/2021, 10:12:59 AM

指の隙間からさらさらと、
こぼれ落ちる、こぼれ落ちる。
その白い砂の正体はなんだろう。
過去、すなわち記憶だろうか?
未来、あるいは可能性だろうか?

唇の隙間からさらさらと、
こぼれ落ちる、こぼれ落ちる。
その黒い砂の正体なんだろう。
信頼、すなわち友人だろうか?
虚構、あるいは虚栄心だろうか?

こぼれ落ちる、こぼれ落ちる。
我が肉体を形作っていた砂が。
ああ、これこそが喪失。
我が肉体の崩れ去っていく感覚。

戻らぬ過去と記憶を思えば
ああ、日記を捲れど虚しい。
来たる未来と可能性を思えば
ああ、夢見る夜さえ苦しい。
失った信頼を、友人を思えば
ああ、声を放つ喉さえ恨めしい。
私を支えるものが虚構と虚栄心だけと思えば
ああ、自分という存在はなんと愚かしい。

ああ、この喪失感! 偉大なる喪失感!
私から失われた一切は、
この感情によって我が身に迫る。
私を切り裂く後悔と共に、
我が身を痛めつける喪失よ。
これを偉大と言わずなんという?

ああ、喪失感よ! 願いがあります。
私から、もう何も奪わないで。

9/9/2021, 11:38:04 AM

私のためだけの地図
私のためだけのコンパス
私のためだけの聖書

私のためだけの
私を導くためだけの
世界に一つだけのものがほしい

私は何をなせばいいのか
私は誰なのか
私にはわからない

分かれ道を目の前にしたとき
呆然と立ち尽くすことのないように
決断を迫られたとき
口をつぐむことのないように

世界に一つだけの
私というたったひとりの
確固たる意志がほしい

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