《優しい嘘》
長い間乗ってきた愛車を手放すことになった、もう15年以上乗っているしシルバーのボディに傷もついている。
子供も大きくなってきたし新しく1BOXカーに変えることにしたのだ。
ボロボロになった車に「お疲れ様、今までありがとう」と言い、今までの思い出を振り返る。
感傷的になっている自分に子供が言う。
『この古い車どうなるの?』
廃車になった車はスクラップにされ鉄製品として再利用されたり、解体し部品を再利用したり、海外輸出されたり、構内専用車として利用されたり様々だ。
俺は子供に言った。
「きっと海外で第二の人生を楽しんでると思うよ」と。
ふと思いついた優しい嘘だった。
《ずっと君と一緒にいたい》
君は僕のこと、知ってるのかな?
君みたいに完璧な人知らない。
恋しちゃったんだ。
君の自堕落なダラシないところが好き。
家の中がゴミだらけなところも好き。
不衛生なところも好き。
お風呂あんまり入ってないところも好き。
食べたり、飲んだりしたあと片付けないでぐちゃぐちゃのままな所も好き。
そういうの人は嫌がるかもしれないけど、僕は居心地良く感じるんだ。
変わってるかな?
けど、最近ライバルが多いんだ。
君があまりに魅力的だから。
彼氏がいない君に、僕が立候補してもいいかな?
そろそろ影から見てるのも飽きてきたから、君の前に姿を現そうかな、なんて。
よし、思い立ったが吉日というし、勇気を出して今から行くね!
カサカサカサカサカサカサっ
冬晴れが続く休日の午後。
久々に田舎で一人暮らししてる婆ちゃんに電話をかけた。
特に深い意味はなかったが、ニュースで一人暮らしの年寄りが殺される事件が放送されて心配になったというのもある。
トゥルルル・・・・・・
『はいはい』
呼び出し音5回くらいで婆ちゃんが出た。
「久しぶり婆ちゃん元気?孫のかなこだよ」
『おぉ、かなこかい、久しぶりやな〜、婆ちゃんは元気やで』
「こっちは最近冬晴れが続いてて過ごしやすいけどそっちはどう?」
『冬バレー?おおそうかい!冬バレー始めたんかい、寒い中元気やね』
「ん?ご、ご飯はちゃんと食べてる?」
『食べとる食べとる、今日は畑から白菜を取ってきて丸かじりしたわ』
(婆ちゃんなんかおかしくない、、?)
私は祖母の異変を感じ、とりあえず状況を把握しようと質問を続けた。
「え・・・?それ歯とか大丈夫なの・・・?」
『はぁとか?ハートか!婆ちゃんハートはいつでも燃えとるけんのぉ』
婆ちゃんが電話越しに笑う。
『今も爺ちゃんとくっついて寝るくらいラブラブやけん』
私はその言葉でお婆ちゃんがボケてる事を確信した。
「お婆ちゃん、お爺ちゃんはもう5年前に亡くなってるじゃない、、」
『ん?かなこもしかして本物かい?』
祖母の言葉に?マークが飛び交う。
「本物ってどういうこと?本物に決まってるじゃない!」
少し語気を強めて言う。
『いや、オレオレ詐欺かと思ったけん、ボケたフリしたんだわっ』
大笑いする祖母。
(こんのクソババア、、心配したちゅーの!)
若干腹立たしさを覚えながらも、元気な祖母に安心したのでまぁ良しとした。
お題「幸せとは」
深夜車通りの少ない中、俺は震える手でハンドルを握ったままあてもなく車を走らせる。
現場から少しでも遠ざかるために。
「・・・ケン君、い、今はねたのって人だったよね?」
「戻った方が良くない、、?か、確認しないといけないし、生きてたら救急車呼ばないと」
『うるせぇっ、俺は酒を飲んでる、飲酒で人身事故なんてムショ行き決定したようなもんだっ』
ミクに怒鳴るように言う。
無言で車を1時間ほど走らせ、とりあえず人が来なさそうな田んぼ道に車を停めた。
季節は1月の真夜中、俺たち以外誰もいないかように人の気配がない。
助手席のミクは青い顔をしたまま無言だ。
『そうだミク!お前が運転していた事にしよう!お前なら酒も飲んでないし』
「えっ!嫌だよっ、ひ、人を殺したかもしれないんだよ!しかもその場から逃げてるし」
(くそ、、なんでこんな事に。ダチのアパートで楽しく飲んで後はミクの部屋でゆっくり過ごそうと思ってたのに!)
(日常がこんな一瞬で崩れ去るのかよ!)
俺は日々の日常がいかに幸せだったかを思い知らされた。
《今回はホラーです》
一人暮らしのアパートの布団の上、日の出とともに目が覚める。
最悪の目覚めだ。
俺は人を殺してしまったかもしれない・・・
布団の中で深夜の出来事を思い出す。
◾️◾️◾️
終電を降り、帰り道を急ぐ。
今日も残業を押し付けられこんな時間だ。
ああ、イライラする、、
そのとき前から女が1人で歩いてきた。
女は酔っているのかふらふらとした足取りだ。
160cmないくらいの細身の女、年齢は30代くらいか。
俺はいつもやってるのと同じように、わざとよろけたふりをして女にぶつかった。
ぶつかった瞬間「痛っ」という女の声が聞こえた。
女はヒールを履いていたため踏ん張れなかったのか後ろに勢いよく倒れた。
ゴッとにぶい音がする。
歩道にじわじわと広がる血、白目を向いた女の顔、、
季節は1月なのに脂汗が浮く。
ヤバいと思い、俺は走り出していた、息を切らせながらアパートに戻り俺は先ほどの出来事を忘れるように冷蔵庫のビールを飲み、風呂も入らず寝てしまった。
そして今に至る。
落ち着かないが、どうしたらいいか分からない。
人目はなかったはず、、
テレビを付けたが、それらしいニュースは流れてこなかった。
今日はまだ平日、会社なんて行ってる場合じゃなかったが、休むと疑われるかもしれないのでいつも通り出勤した。
朝からソワソワ落ち着かなかったがその日は何事もなく終わって帰宅した。
翌日も何もなく、1週間経つ頃には俺はすでに捕まるかも、というような恐怖はなくなっていた。
出血はしていたが見た目だけで大したことなく、自力で家に帰ったんだろうと自分の中で結論づけた。
そして2週間が経った、今日は残業で終電帰り、あの日以来だ。
人通りも少ないし、出来ればあの道は通りたくなかったが、あそこを通らないとえらく遠回りになってしまう。
仕事でクタクタだったし早く家に帰ってゆっくりしたかった。
あの出来事があった歩道を歩いている時、後ろから声が聞こえた。
「やっと見つけた・・・」
バッと勢いよく振り返る。
そこには頭に包帯を巻いた、あの時の服装のままの女がいた。
恐怖に顔をゆがめ、後ずさる。
女が距離を詰めるようにこちらに歩を進める。
『ひぃっ、く、来るな』
俺は女に背を向け逃げようと走った。
と同時にドカンという強い衝撃が俺を襲った。
歩道の先にある横断歩道を走る俺を、横から来た車がはねたのだ。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!)
痛くて指先1つも動かせない、、
痛さを堪える俺を横目に、俺をひいた車はそのまま走り去った、、
俺は血で開けづらい目を開け、女の方を見た。
『・・・た、助けてっ』
女は俺を見てニヤリと笑い、そのまま背を向け遠ざかっていった。