オレたち野良猫の集会にいつも参加したがるアイツ。
毎度毎度リーダーにコテンパンにやられるのに、懲りずにキラキラした目でやって来る。
正直言って、アイツはバカだ。
今日も一番乗りで行儀よく座っている。
その姿を見ていると猫心もニャっと痛む。
ごめんな、オマエとは仲間になれないんだよ。
だってオマエ、
犬だから。
ここは死後の世界の片隅にある写真館。こちら側へ来られた方の人生を、1冊のアルバムにすることが主な仕事です。
おや、早速ご注文が入ったようですよ。
「ここですか、人生をアルバム1冊にまとめてくれるって言う…。」
「ええ、うちで間違いありません。」
店主と見られるじいさんは俺を見て深々と頭を下げる。生きてきた中でこんなに深い礼をされたことがあっただろうか。
「島本晶哉様ですね、承りました。少々お待ちを。」
じいさんはいそいそと引っ込んでいく。俺は島本晶哉、21歳。ここから先俺が年をとることは無いらしい。俗に言う天使に何度も説明されて、やっと理解した。ここが死後の世界なのだと。さっきまでドライブを楽しんでいたのに、いきなりあなたは死んだのだと聞かされたらまず信じられないだろう。
天使の話に確信を持てずにいると、天使がこの場所まで導いてくれた。
「完成いたしました。」
「えっもう?」
死後の世界では、現世の理では説明の付かないことが多々ある。そんな現象が起こる度、俺は一生を終えたという事実を突きつけられるんだ。
早速アルバムをぺらぺらと捲っていく。俺の人生、下らないことだらけだったなあ。色んな人に嫌われたし。写真の中の俺は、周りの人間とは少し離れた所にポツンと佇んでいる。
「あれ、なんだこれ。」
1枚だけ、不思議な写真があった。俺と肩を組んで笑う女の子。誰だこれ。いや、やっぱりどこかで…。記憶を隅々まで探して、やっと見つけ出した。
彼女は俺の幼なじみ、花ちゃん。無愛想で人の寄り付かない俺に唯一笑顔で接してくれた花ちゃん。小学校に上がる前に引っ越しちまったけど。そう、中学生あたりで突然、手紙くれたんだっけ。
「生まれ変わったら天使になってまさちゃんが来るのを待ちます。」
その時は意味がよく分からなかったけど、後々聞いたら花ちゃん、病気だったんだってな。返事を出しても花ちゃんから返事がくることは無かった。
ごめんな、花ちゃん。気付くの遅くなって。
「来るのが早いよ、まさちゃん。気付くのは遅いけど。」
後ろでは、俺をここまで導いてくれた天使が泣きながら笑っている。
彼らは二人手を繋いでこの世界の彼方へと消えていった。
写真館の店主は満足そうに微笑み、二人の後ろ姿を写真に収めるのだった。
僕の周りを駆け回る少女だった君
寄り添って夢を語った乙女の君
小さな命を育む母になった君
そして今、子に支えられて僕を見上げる君
いつの君も、ここにある。
「あなたはいつまでも変わらないわねぇ」
失礼な。日々変化している。君たちの成長が早すぎるだけだ。
君にだって変わらないものはある。
僕を撫でる手。この手だけは、いつの君も同じものを持っていたよ。
1人部室でベースを演奏していた時、君はいつの間にか後ろに立ってた。
「何だかかっこいい音が聴こえて来るなと思ってきてみたんです。あなたが演奏してたんですね!何かこう…胸が熱くなってドキドキして、感動しました。私もその楽器、演奏したいです!!」
あの後、汗まみれの手に握手を求められ、ベースを教えてくれと毎日放課後、部室にやって来て…
本当、変わった人だと思ったよ。
でも諦めずに食らいついて、今ではステージの上で輝いている。
あの日からずっと、君の胸を熱くさせているのは音楽だ。だけど、僕にだってあの日から、熱い鼓動がずっと鳴り響いてるんだ。キラキラの目、明るい笑顔、火傷しそうな熱血な性格、ベースをかき鳴らす全力な姿。
叶わないと分かっていても、心は惹かれてしまうんだ。
君の心は、音楽から離れないのに。
『もしも過去へと行けるなら』
「もしも過去に行けるとしたら、どうする?」
幼なじみの菜々美。彼女の口から飛び出す言葉はいつも突拍子もない。
今だって、カフェで優雅にお茶しようと言ってコーヒーを口に含んだばかりだというのに。
「何、いきなり。そんなこと聞いてどうするの。」
「いや〜、昨日テレビで見たんだけど、莉子ならどうするかなって思って。あ、私は今をenjoyしたいから、行けるとしても行かない!」
「ふーん。やり直したいこととか無いんだ。」
「あるけど、やり直したら今の莉子との楽しい時間も変わっちゃいそうで怖くて。」
そんなことを言われたら、彼女のことを好きにならずには居られないだろう。
「私も、タイムスリップは間に合ってるかな。」
「莉子も私とのJK生活楽しんでくれてるんだ。良かった〜。」
コーヒーを飲み直し、笑顔の菜々美を前にする。
(この笑顔を、守れたんだ。もう、タイムスリップなんて、ウンザリ。)
「タイムスリップなんてするもんじゃないよ。」
呟きは、彼女の耳には届かない。