ラムネ

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7/22/2025, 3:38:56 PM

あの夜、世界の主人公はきっと、君と僕だった。

眠れないと言って外の空気を吸いに出た深夜0時。
庭に佇む人影を見た気がした。

夜の静けさに月の眼差し、全てをその身に集めた君は
眠れぬ僕を夢の世界へ引き込んだ。

「誰も私に会いに来ないと思っていたのに。幸運な人。」

君は月の光を受け、子供のいたずらをしょうがなく許す母のような顔を見せた。

「こんな時間に女性が一人で…、何のご用ですか。」

「目を覚ました場所が、たまたま此処だったのです。」

今思えば、もっとましな言い訳は無いのかと文句の一つでも飛び出すが、あの日は君の輝きに狂わされたのだろう。
納得してしまう自分がいた。

「この月を見れるのもあとわずかなのです。良ければご一緒してくださいませんか?」

少しして、彼女をじっくり観察する余裕ができた。長い黒髪に白いワンピース、整った顔立ち。ただでさえ美人な彼女は、月の祝福を受け、光輝いていた。

「あなたは一体…」

「今晩生を受け、夜明け前に消えゆく者です。」

彼女の言っていることはよく分からなかった。

「次はいつ月を見れるか、分からないのです。もうこのような機会は訪れないかもしれない。」

「…あなたのことは分かりませんが、僕にできることは、何かありませんか?もう一度くらいあなたに会ってみたいです。」 

僕は恋をしたのかもしれない。この短時間で、この人に。

「あなたが大切にしてくれれば、もう一度月に会えるかも。もちろん、あなたにも。……そろそろ夜明けですね。」

「それじゃあ、幸運な人、またいつか。会える日が来ることを祈っています。」

僕はそこから意識を失い、気付けば庭で母に揺さぶられ、
家族全員に顔を覗き込まれていた。

何とかごまかして、僕はふと彼女のいた場所を見つめた。
植木鉢に、萎れて下を向いた花を持つ植物が植えてある。

「あら、その花昨日咲いたの!?」
驚く母の声。この植物、確かに昨日の昼ごろは花なんて付けていなかった。

「この花、名前は?」

「この花はね、月下美人って言って次にいつ咲くか分からないの。それに、咲くのは夜だけだし、夜明け前には萎んじゃうの。ここに植えてる月下美人は、今まで一度も咲いたことが無かったのよ。見たかったなあ。」

月下美人。
まるで彼女を表した名をもつその花に、待っている彼女に、月と僕の顔を再び見せよう。

密かな決意と祈りが、あの夜の主人公を包む。