写真を撮るのが好きだ
風景を撮るのが好きだ
でも一番好きななのは
写真を撮る、君を撮ること
アルバムにまた君の背中が1枚増える
「私ね、その人に送った最後のものが永遠になると思ってるの。でね、その人にあげるものはいつも最後だがらって後悔のないものを渡してるのね。貴方に渡したそれがもしかしたら最後になるのかもって」
ある時彼女はそう言っていた。
2年前に付き合って初めてプレゼントをくれた日のことだった。
珍しくホワイトクリスマスだったから覚えてるし、初めての彼女にもらった初めてのクリスマスプレゼントだから。
彼女が働いていた、洋服店で取り扱ってたセーターだ。
普段滅多に気ないその色の服。
似合わないと思って手に取らなかったそれを、彼女はくれた。当時は、嬉しさも相まって毎日のように着ていた。
次に貰ったものは、財布だったし。
その次に貰ったのは、時計だった。
形に残るものを彼女は、渡したがり
形に残らないものは、絶対くれなかった。
「目に見えないものは、無いのとおなじ。愛は、目に見えず渡すことも受け取ることも無理。だけど行動とそれに伴ったプレゼントは渡せる。全て愛なんだよ。」
今に思えば、きっとあの言葉は照れ隠しだったのだと分かる。
今日も後悔とともに咲くドライフラワーの花束は心を締め付ける
「わあ!」
不意に後ろから放たれた大きな一言
驚き体がビクンとはね、反射で振り向いてしまった 。
声の主はそこにはおらず、笑い声が聞こえた
「ふふっ、引っかかった。」
僕は振り返ってはならない道を歩いている。
だと言うのに、やってしまった
突風と巻き上がった砂埃で目の前が霞む
次第に体の感覚がおかしくなった
立っているか分からず、目を閉じてることしか出来ない。
気がつけば、歩き出した最初の場所にいる
この世の終わり、黄泉の国の門の前
黄泉比良坂のその終点に。
振り返るな、振り返らなければ家に帰れる
何度やってもいい、ただ心が折れなければ
神と約束した、この坂を登りきる。どんな誘惑が災難が襲おうとも
3度の失敗で分かった。割と神は暇なのだと。
もう一度、失敗したら、神の話し相手にでもなるかと
「わあ!」
煌びやかに夜空を彩る星空
頭上から優しげな光を落とす満月
月光に照らされ、青白く光り輝いた
一面に広がる白いアネモネ
川の流れる音が聞こえ振り返れば
白い見事な橋がかかっていた。
あまりに大きい川なのか対岸を見ること出来なかった
幻想的な光景が広がるここを僕は知らない。
気がついたらこの場所で寝ていた。
既視感のあるそれらは、絶対に同時に存在することなど有り得ない。
だからこそ、心地がいいのかもしれない。
暑さも寒さもない、肌を撫でるそよ風が心地よくいつまでもここにいたいと思う。
川を渡らなければならないと思うが、もう少しだけここで寝ていたい。
朝日昇ったらあの橋に向かおう。
いつまで経っても、日は昇ることは無かった。
来た時に感じていたそよ風も川のせせらぎも聞こえない。
ただ、静寂だけが僕を包む。
目を閉じる。そして僕を呼ぶ声が聞こえる
「声が聞こえる」
後悔はない。
悲しみもない。
この判断は間違っていないと言える。
ベランダでタバコを吸いながら言い聞かせるように反芻する言葉の数々
2日前までこの家は活気が確かにあった
心地のいい雑多の音が無くなるだけでこんなにもこの家が広いのだと実感してしまう。
付き合って、同棲して、結婚の約束もした。
多少のすれ違いも、喧嘩も有りつつ良好な関係だった
少なくとも僕はそう思っていた。
浮気するヤツは許さないとは思わない
だが受け入れることも難しく、感情のコントロールが上手くいかない。
向こうも悪いが、きっと自分が悪い
大切に接してなかったのかもしれない
愛をちゃんと伝えてなかったかもしれない
一緒にいても楽しいとは思えなかったかもしれない
8割ほどはきっと僕がわるいのだ、この決断を含め。
自己嫌悪が僕を襲う。
冷静に考えれば、好きという感情も愛してるという気持ちもなかったのかもしれない
肌を撫ぜる風が、ぐちゃぐちゃになった思考を冷静にする。
ぽっかりと体の中心に空いた穴は、悲しみでは無いことを知っている。
これは、きっと間違いなく、喪失感というものだろう
飲みかけの酒を煽り、タバコに火をつける
『喪失感』