《失恋》
「私たち、別れよっか」
あぁ…切り出してしまった。彼はすごく驚いた顔をしていた。それもそうだ。私がそういう素振りを全く見せなかったし…
私にもその気が全くないからだ。
別れを切り出した理由―簡単に言えば―遠距離恋愛になるからだ。遠距離恋愛の理由はと言ったら私の母が要介護になってしまったことだ。父はもう他界していて、誰も母を支えられない。だから、実家に戻る羽目になった。そして実家はここからまあまあの距離がある。介護することも相まって彼と会うのはホントに難しくなる。
さらに言えば―彼をこちらの私情に付き合わせることになってしまうと思った。彼はいい人だ。だから事情を話したらなんとか別れないような策を捻り出すだろう。
それでは駄目だ。私が申し訳無くなってくる。だから…別れなければならない。
「どうして」
予想通りの言葉を彼は綴ってきた。
「理由?それはあんたのことが嫌になってきた。なんていうか…飽きた。楽しくなくなってきた。……」
ひたすらに私は心の中で思ってることと反対の言葉を並べ続けた。そのたびに心がチクチクと痛む。
「だから…だから!私たち、別れよう」
「―ホントは別れたくないんでしょ」
「なんでそんなこと言えるの?」
「じゃあなんでそんなに必死になって僕を突き離そうとするんだい?…どうして涙がこぼれているの?」
私は気づかぬうちに涙を流していた。やっぱり心のなかで決めたつもりだったのに…別れたくない。でも別れなければならない。感情がごちゃごちゃになっている。
そして、次の言葉を私は何とか紡いだ。
「私はあなたの枷にはなりたくないの。あなたを縛り付けたくはないの。あなたが私のせいで頭を悩ませているのは見たくないの。だから、別れる。だから…もう連絡しないで。」
私は自分の持ち物を半ばヤケクソに鷲掴みしその場を立ち去った。
…これでよかった。これでよかったはずなのに…
自らで恋にトドメを刺してしまった。失恋にはこんな種類もある訳か。複雑に入り乱れた感情の中、ぼんやりと失恋した事実を飲み込み始めた。
《正直》
正直者は損をする。
これは僕の経験則ではあるのだが他の人もそう思ったことはあるんじゃないだろうか…と思う。
どっちかというと僕は正直者で真面目という品行方正みたいな人だった。
そんな性格だと人から信用を得るのは割と難しくない。しかし、無駄に労力を割き、疲れる。
…だから、大学という新しい場所では…
思いっきり自分を偽ってやる。楽してやる。もう、他人に振り回されすぎない。
「ほどほどを目指す…!」
果たして僕の大学生活はどうなるんだろうか。
《梅雨》
梅雨…ねぇ。もうそろそろ近づいてきたわね。
私の誕生日も…もうすぐだ。
彼は…祝ってくれるだろうか。
程々に期待しておこう。
《無垢》
「せんぱ〜い」
「ん?なんだ、お前か」
こいつは俺にずっと付きまとってくる…なんというか、犬みたいな後輩だ。多分、幼馴染ってやつだと思う。
前は活発そのものだったが今は清楚系美少女になっている…「見た目だけ」は。
それ故、こいつはすごくモテる。そして、俺はクラスの男子共から妬まれている。
「先輩?聞いてる?お〜い」
「え?何の話?」
「私が無垢?ってやつかどうかって話ですよ!」
「どういう風の吹き回しだ」
「いや〜、クラスの男子がね?付き合うなら純粋無垢な人がいいって言ってて純粋無垢の無垢ってなんだ?って思ったんですよね」
「ふ〜ん」
「なんでそんなに興味なさそうなんですか?!」
「調べればいいんじゃね?って思ったからだよ」
「うっ…」
純粋無垢、か。俺から見ると十分純粋無垢だと思うがなぁ。いや…でもこんなにしつこく絡んでくるのは違うかもしれない。
「まぁ…俺的にはお前は純粋無垢な方だと思うぞ」
「え?そうなんだ~」
そしてこいつはさらに、
「じゃあさ、先輩は純粋無垢な女の子は好き、ですか?」
「うーん」
と、口を開こうとして気付いた。ここでうん、と答えたら俺がこいつを好きみたいになるのでは?
実際、好きではあるがラブではなくライクなのだ。
ならばどう答えるのが正解か?
――――――――――――――――――――――――
私は先輩にそれとなく私のことが好きか探りを入れた。
もし、この質問で好きと答えたら、私にチャンスがあるということになる。
私は先輩のことがだいぶ長いこと好きで…
なかなか告白は出来ないでいた。
でもそろそろこれを私の中で終わらせたかった。だから聞いた。
そして―先輩の返答は
「好きではあるけどなぁ…」
これは…巡ってきたチャンスだ。
さて、このあと私はどうしようか……
《終わりなき旅》
「あ〜もうやってらんねぇよ〜」
俺は仕事終わりに居酒屋で同僚と呑んでいた。いつも愚痴がある時はお互い居酒屋で喋って酒の力で忘れようとする。逃避行為なのは重々承知している。だがそうでもしないとやってられないのだ。
………飲み過ぎたかもしれない。
同僚と別れたあと猛烈に気持ち悪さやらなんやらが俺に襲いかかってきた。
しょうがない、ちょっと休むか。近くの公園のベンチに腰掛けた。結構夜遅いので人はほぼいない。
「疲れたなぁ…」
大きく伸びをする。うっかりすると寝過ごしてしまいそうだ。なんて思ってると―
「おっちゃん、何してるの〜?」
若めの声が近くから聞こえてきた。声のする方へ向くと、少年が立っていた。フードを被っていて表情がよく見えないが笑っているような気がする。
「見ての通りだよ。休憩だ、休憩。というかまだおっちゃん呼ばわりされる年齢じゃないと思うんだが?」
「そうかな?僕にとってはおっちゃんだけど」
「…んでおっちゃんに何の用だ?俺は帰んなきゃいかんのだが」
「人生って何だと思う?」
突然の少年の話題に驚いた。夜遅くに俺に話しかけるなり急に何を話し始めるんだ、この少年は。
「どうして急に…?」
「いや〜なんとなく?こんな夜遅くにうなだれてる人ってどうなんだろーなーって」
「うなだれてはいないわ」
つい、突っ込んでしまった。
「…でもそうだな、旅みたいなもんかもしれんな」
「旅?」
「ああ、そうだ。旅って予定を立てても完璧に上手くいくもんじゃないだろ?なんか人生もそんな感じがしないか?」
「なるほどね…じゃあ、おっちゃんは終わりなき旅の途中ってわけか」
「終わりなき…旅…か」
なんか腑に落ちる発言だった。人生はさながら終わりなき旅のようにちょっと計画して、実行して、次に活かす。その繰り返しだな。
「ありがと、おっちゃん。ほんのちょっとだけど楽しかったよ、それじゃ。」
そうして少年はその場を去ってしまった。
なんだか考えさせられる話題だったなぁ…