《失恋》
「私たち、別れよっか」
あぁ…切り出してしまった。彼はすごく驚いた顔をしていた。それもそうだ。私がそういう素振りを全く見せなかったし…
私にもその気が全くないからだ。
別れを切り出した理由―簡単に言えば―遠距離恋愛になるからだ。遠距離恋愛の理由はと言ったら私の母が要介護になってしまったことだ。父はもう他界していて、誰も母を支えられない。だから、実家に戻る羽目になった。そして実家はここからまあまあの距離がある。介護することも相まって彼と会うのはホントに難しくなる。
さらに言えば―彼をこちらの私情に付き合わせることになってしまうと思った。彼はいい人だ。だから事情を話したらなんとか別れないような策を捻り出すだろう。
それでは駄目だ。私が申し訳無くなってくる。だから…別れなければならない。
「どうして」
予想通りの言葉を彼は綴ってきた。
「理由?それはあんたのことが嫌になってきた。なんていうか…飽きた。楽しくなくなってきた。……」
ひたすらに私は心の中で思ってることと反対の言葉を並べ続けた。そのたびに心がチクチクと痛む。
「だから…だから!私たち、別れよう」
「―ホントは別れたくないんでしょ」
「なんでそんなこと言えるの?」
「じゃあなんでそんなに必死になって僕を突き離そうとするんだい?…どうして涙がこぼれているの?」
私は気づかぬうちに涙を流していた。やっぱり心のなかで決めたつもりだったのに…別れたくない。でも別れなければならない。感情がごちゃごちゃになっている。
そして、次の言葉を私は何とか紡いだ。
「私はあなたの枷にはなりたくないの。あなたを縛り付けたくはないの。あなたが私のせいで頭を悩ませているのは見たくないの。だから、別れる。だから…もう連絡しないで。」
私は自分の持ち物を半ばヤケクソに鷲掴みしその場を立ち去った。
…これでよかった。これでよかったはずなのに…
自らで恋にトドメを刺してしまった。失恋にはこんな種類もある訳か。複雑に入り乱れた感情の中、ぼんやりと失恋した事実を飲み込み始めた。
6/3/2024, 2:41:30 PM