《「ごめんね」》
「2人で久しぶりにデートしようって言ってここまで来たけど何すんの?」
「うーん、どうしよっか」
私は遠距離恋愛をしている彼と久しぶりにデートしている。ここまで私は全く表に出さなかったが、
心中するつもりだ。
理由は…彼の浮気だ。その上私から色々なものを奪っていった。1番奪られたのはお金だろう。結婚詐欺とかに近しい手口だった。
ならばそうなる前に別れれば?―そう言われたらそうなのだが…
私は彼にどっぷりハマってしまっていた。抜け出せなかった。というより気づかなかった。
こないだ友人に言われてやっと気づいたぐらいだ。
それから…私は復讐を企み始めた。自分でも馬鹿なのは分かっている。だが、こうでもしないと自分の中で整理がつかなかった。
だから、私は―
「何するか…ね。こういうのはどう?」
懐からナイフを取り出す。
「心中する」
彼が声を発する前に―私は彼の胸にナイフを突き立てていた。
見たことない量の血があたりに飛び散った。普通ならこんなことすると怪しまれるが…
そうならないように場所を選んだ。真夜中の海岸沿いの崖。ここなら誰も助けが来ないだろう。
息も絶え絶えになっている彼を崖から引きずり落とした。
そして―私は首を切った。崖から飛び降りた。
落ちる途中、何故か、誰に対してなのか分からないが1つの言葉が思い浮かんだ。
「ごめんね」
《半袖》
「へっくしょい…」
花粉症の症状が止まらない春真っ盛りの日に…
俺と彼女は出会った。
きっかけは何だったか、図書館で自習してる時にたまたま隣になったこと…だと思う。
そうだ、彼女がスマホを図書館に忘れてって俺が慌てて追いかけたのが最初だった。
「あ、あの、忘れてってますよ」
「へっ…?あ、ありがとうございますっ!」
そこからお礼が何やらとかで交流が多くなり、今は週1で会って勉強をしている。…付き合ってはいない。
「やっぱり好きになってんだよなぁ…」
俺は心のなかでつぶやいた。俺は彼女に惹かれている。あちらはどうか分からないが…
―告白。
タイミングが難しいし、今の関係を壊しかねない。
ふと、カレンダーを見る。
―夏か。お祭りとかに誘って告白するとか…ありかもな。
だいぶ暖かくなり、そろそろ半袖の季節だ。
《天国と地獄》
「ねぇ、君は死後の世界を信じる?」
「なんですか、急に話しかけてきて」
僕が夜の街をアテもなくぶらついていたら、怪しい女が話しかけてきた。明らかにオーバーサイズのコートを着て、フードを被っていて顔がよく見えない。
「私ね、これから死のうかなって思ってるの。この際死ぬことについて色んな人に聞いてみよっかなって」
「説明されても一ミリも分かんないんですが…」
「まぁ、冥土の土産ってやつよ」
全く意味が分からない。だがこの女は死のうとしている。それは止めるべきなんじゃないか?
「あの〜、あなたの事情はよく分かりませんが死ぬのはやめたほうがいいんじゃないかと思うんですけど」
「君もそういうのかい。じゃあ賭けをしよう。」
「賭け?」
「君が私を説得できたら私はもう少し生きてみる。説得できなかったら私が“目の前で”死ぬ。…どう?」
やはり意味が分からない。しかも僕が説得できなかったら目の前で死ぬとか言っている。気が狂ってるのか?
「…あなたがどういう人なのか分かりませんがとりあえず止める説得はします。」
「賭けに乗ったって訳だね。じゃあそこのベンチで喋ろっか」
そこから色んな話をして説得を試みた。試みたものの、女の境遇がひどすぎだった。元彼にほぼ全財産を持ち逃げされ、家もなく、さらに職もないという。…簡単にいえば絶望的状況―地獄―だった。僕もこうなったら死を選びたくなるだろう。
なんとか説得し続けてきたのだが…
「残念。時間切れだ。私が死ぬという気は変わらなかった。君の負けだ。」
「は?時間切れってどういう―」
聞く間もなく女はナイフをポッケから出し、首を切ってしまった。辺りに血が飛び散り、血溜まりが出来始めていた。
こんな状況を初めて見て、地獄のようだと感じた。そして、空回りしていた頭がやっと平常運転し始め、
「救急車、呼ばなきゃ」
慌てて携帯を取り出そうとすると、
「その必要はないわ。やっと死ねるもの。」
「何言っているんですか。あれだけ言ったでしょう。生きてることの楽しさを。だからもう少し生きましょうよ」
「君はなかなかいいやつだね。君は天国に導かれる人材だ。私は地獄に行ってくるよ」
最後の最後まで何を言っているか分からなかった。そして、女はその言葉を最後に息絶えた。
《月に願いを》
「あぁ…何も浮かばねぇ…」
俺は夜の町をうろつきながら思考を巡らせていた。
というのも俺は作曲家をしていて楽曲提供などを主に活動している。
そして……深刻なネタ切れだった。
「次の曲はアイドルに提供でイメージはこうで、歌詞もだいたいのコンセプトがあるらしいし…」
「もうあと俺が作るだけ?!」
思わず大きめの声が出てしまった。周りの人からやばいやつみたいにチラチラ見られてしまった。
なんだか神にでも縋りたい気分になってきた。
ふと、空を見上げたら満月だった。
お月さまにでも願ってみるか。…なんだか俺の仕事と月って似てるような気もしてきた。月は太陽の光を受けて輝く。それに対し俺の作る歌がだれかに歌われることで歌が輝く。
「似てるようで似てないかもなぁ…」
そんなことを思いながら俺は月に願いを込めてみたのだった。
《降り止まない雨》
あーあ、殺っちゃった。
深夜の住宅街を私は歩いていた。かなり強く雨が降っていた。だが、今の私にとって非常に都合がいい。
殺っちゃった跡、なくなっちゃうね。私の返り血も雨が洗い流しちゃうから。
あいつを殺した理由は単純だった。私と結婚しているはずなのに他の女と子供を作っていたからだ。何回か…浮気や不倫など見ていたが黙っていた。あいつは私が何を言っても辞める気がさらさらないからだ。
しかし、今回は事情が違った。というかそろそろ許せなくなってきていた。
だからあいつを殺した。
こうして街をあてもなく歩いていると雨があいつとの過去を洗い流してくれているようにも思えてくる。
…もう私は人殺しの犯罪者。そんなことも雨が洗い流してくれないかな。
雨はまだ降り止まない。