─バカみたい─
「先輩、僕彼女できました!」
目の前には嬉しそうな部活の後輩。
ここで私は、単純に喜べばいいんだろう。
「…先輩?大丈夫ですか?」
『…あぁ、大丈夫だよ。おめでとう。』
入部してからは、一緒に笑ったりからかったり、
時には悔しくて涙を流したり。
とても楽しい毎日だった。
付き合いたいとは、思ってないつもりだった。
でも、いつの間にか傲慢になってたみたい。
『…本当、おめでとう。』
私の口から溢れた言葉は、とても小さく、
悲しいんだと自分でもわかるような声だった。
「え、先輩!?なんで泣いてるんですか!?」
『…いや、なんでもないよ。』
自分から伝えなかったのが悪いんだよ。
本当、バカみたいだなぁ、私って。
『…今まで、ありがとう。』
その言葉を最後に、私の恋は終わった。
─泣かないよ─
本当は知ってたよ。
何もかも、全部。
君が僕を捨てようとしたのも。
それが全部僕の為だったことも。
また会えるかわからないから、
いつも言ってた「またね」じゃなくて、
「バイバイ」で終わらせたのも。
全部全部、分かってた。
勿論、止めたかった。
僕の為に、なんて言わないでくれって。
僕の為に、行かないでくれって。
でも、君の顔を。
悲しそうで、でも何処か嬉しそうな顔を見たら、
何も言えなかったんだ。
きっと君は、僕に泣かないような人生を送ってほしかったんだろう?
だからせめて、その願いを叶えるよ。
僕はもう、泣かないよ。
─星が溢れる─
ある小さな町に、ひとつの星が落ちてきた。
それはダイヤのように輝き、吐息が漏れるほど美しかった。
星は博物館に飾られ、町の人々はそれが誇らしかった。
しかし、星が落ちてきた町の何倍も栄えている、
隣国の王様にもその話が届いてしまった。
王様は嫉妬から、その小さな町を襲った。
星は奪われ、大怪我を負った人も少なくなかった。
それをお構い無しに、隣国の王様は綺麗な星を眺めていた。
手で触ると石のように硬く、でも何処にでもある石とはまったく違うモノだった。
その日の夜、寝付けなかった王様は見た。
奪った星が砂のようなモノになってサラサラと消えていくのを。
そしてその奥の窓からは、自分の国に星が降り注いでいるのが見えた。
空から落ちてくる星たちは家を壊し、国を壊し、国民の心をも壊していった。
夜中に響く人々の声。それとは裏腹に美しく降る星たち。
王様は、その光景に小さく吐息を漏らした。
人が亡くなると、夜空の星になって輝くらしい。
昔、星が降り注いだと言い伝えられた国では、
一夜にして美しい星が溢れたらしい。
─月夜─
「満月の今夜、光輝く瞳の貴方を頂戴する。」
星が煌めく空から、颯爽と現れた男は言った。
開け放たれた窓からは、
冷えた風によりカーテンは靡き、
月明かりは窓辺に立つ彼を引き立たせる背景になっている。
そして、彼が私の方を向いた瞬間、見えていなかった顔が見えた。
それは数年前、失踪した私の彼に似ていた。
私の家は裕福な為、庶民だった彼と付き合うことは許されなかった。
失踪した時は本当に悲しかったが、今こうして会えた。
偽物だという考えはひとつもなかった。
彼は近づき、手を取って言った。
「お嬢さん、貴方を幸せにさせてくれませんか?私に、拐われてくれませんか?」
彼の目には、うっすらと涙が滲んでいた。
そんな彼にかける言葉は、ひとつしかなかった。
「はい、よろこんで」
満月の美しい月夜に監視カメラに映ったのは、
楽しそうに、幸せそうに笑う、二人の男と女だった。
─たまには─
ねぇ、返事ぐらいしてくれてもいいじゃん。
君は私を、過去の関係だからって切り捨ててさ、
もう終わりだって、他人と変わらないって言うの?
確かに、私と君は最悪な別れ方をしたよ。
嫌いになるのもわかる。
でもさ、嫌いなんなら、
「もう関わらないで」とか言えばいいじゃん。
そしたらこの関係に、けりをつけられるから。
過去を諦めて、新しい恋を探そうと思うから。
これで、10回目のLINEだよ?
ねぇ、たまには、本当にたまにでいいから、
短い文でも、悪口でも、なんでもいいから。
だから、返事をして。
私を、安心させて。