─月夜─
「満月の今夜、光輝く瞳の貴方を頂戴する。」
星が煌めく空から、颯爽と現れた男は言った。
開け放たれた窓からは、
冷えた風によりカーテンは靡き、
月明かりは窓辺に立つ彼を引き立たせる背景になっている。
そして、彼が私の方を向いた瞬間、見えていなかった顔が見えた。
それは数年前、失踪した私の彼に似ていた。
私の家は裕福な為、庶民だった彼と付き合うことは許されなかった。
失踪した時は本当に悲しかったが、今こうして会えた。
偽物だという考えはひとつもなかった。
彼は近づき、手を取って言った。
「お嬢さん、貴方を幸せにさせてくれませんか?私に、拐われてくれませんか?」
彼の目には、うっすらと涙が滲んでいた。
そんな彼にかける言葉は、ひとつしかなかった。
「はい、よろこんで」
満月の美しい月夜に監視カメラに映ったのは、
楽しそうに、幸せそうに笑う、二人の男と女だった。
3/7/2024, 10:19:30 PM