人さがし

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9/13/2023, 2:01:39 PM

─夜明け前─

君との別れ際。

もう時刻は深夜三時。

いつもの夜明け前。

これで何回目かわからない、

愚痴や雑談だけで終わる、

二人だけの、秘密の飲み会。

仕事が辛いだの、繁忙期に入っただの、

上司がうざいだの、最近暑いだの。

何故夜明けまで語れるのか分からないほど、

どうでもいい話ばっかり。

それでも楽しい。

癒しであって、幸せである唯一の時間。

いつまで続くか分からない、至福の時間。

飲み潰れても、二日酔いが辛くても。

いつまでも続いてほしいと言う願いは、

二人が言えないたった一つの本音。

9/11/2023, 7:20:30 AM

─喪失感─

何時からだろうか。

心に何か足りないと感じたのは。

胸の中が霧で覆われているような、何か黒いものが渦巻くような。

喪失感と言えば伝わるのだろうか。

失ったものは何もないと思う。

そのせいで不幸せと思うこともない。

むしろ幸せだ。

妻や子供、親友など、人望に恵まれ。

上司に期待される程、仕事に恵まれ。

家族が幸せだと言う程金運に恵まれ。

全て順調。幸せだと言える筈なのに。

何で、この胸の霧が晴れないのだろう。

そういえば、親友にこの事を相談したとき、不思議なことを言っていた。

『俺にはその原因が分かる。でもそれをお前が知った時───』

親友は、一回息を吸って言った。

『きっと後悔する。死にたくなる程に。』

最初は意味が分からなかった。

幸せなのに死にたくなるわけない、と。

ただ親友は、悲しそうな瞳を閉じ『思い出さない方がいい』と言った。

きっと本当なんだろう。原因を知っているのも、死にたくなるのも。

だから今の幸せが続くときまで、思い出さないよ。きっと。

9/9/2023, 6:50:37 AM

─胸の鼓動─

何故今まで忘れていたのだろう。

大好きで一番大切な存在を。

僕の全てだった、父の事を。

思い出した瞬間、頭が痛くて、

息を吸うことしか出来なくて、

自分の胸の鼓動しか聞こえなくなって。

そうだった。

父は、僕が九歳の頃に、事故でなくなった。

いつまでもお人好しな人で。

その事故も、運転手が前を見ていなくて、

子供が轢かれかけたのを助けたんだって。

それを聞いた時は、何で死んだのか、

何で見ず知らずの子供を助けたのか、

何で僕を置いていったのか分からなくて、

ずっと泣いていたっけ。

その次の日から父が、

置いていったあの人のことが憎くて、

忘れたふりをしたんだっけ。

時が過ぎていくにつれ、過去のことだって飲み込んで。

全て忘れたと思ったのに、捨て忘れた父の手帳で思い出すなんて。

そもそも何で恨んでいたんだろうか。

いつまでも、愛して、優しくしてくれた父を。

最低なのは、僕の方だったんだたな。

8/28/2023, 11:47:34 AM

─突然の君の訪問。─

彩りの少ない部屋に鳴り響く、誰かが来た音。

朝8時にくるなんて配達員ぐらいと思い、

聞こえてないふりをするために布団に深く潜った。

その数秒後。

想像すらしていない相手の声が聞こえてきた。

僕が住んでいるこの狭い部屋は、扉が薄い。

その為、扉の前に居る人物の声は、布団に潜っても聞こえてくる。

「あれ、あいつ居ねぇのかな。」

その声は、間違いなく僕の親友の声だった。

確認のため、もう少し待っていると、また声が聞こえた。

「待って、まさか別の人の家だったか?」

「前に来た時はここだったと思うんだけどなぁ。」

覚えてないんだよなぁ、と親友は付け足した。

その疑問が確信に変わるまでが面白く、でも外は暑いので迎え入れることにした。

「あっ!居るじゃん、何で開けないんだよ!」

『いや、ちょっと君の反応が面白くて。』

「人が迷ってる所を笑うな!って言ってもお前はそーゆうやつだったな。」

『おい、そんな言い方しないでよ。』

『そんなことより、外暑いでしょ?早く入りなよ。冷房ついてるから。』

良くある、突然の君の訪問。

引っ越した僕には心配だらけだからありがたいけど。

これが親友なりの、僕を安心させる方法らしい。

8/24/2023, 7:25:12 AM

─海へ─

『今さ、海に居るんだ。』

深夜一時。

たった一人の親友から来た、一件のLINE。

それだけで僕は、察してしまった。

今、親友は死んでしまおうとしていることを。

親友は死にたかった。

いじめられて、痛くて、辛くて、泣いて。

消えてしまいそうな、震えている、悲しい声で。

『辛いよ。消えてしまいたいよ。』と話す。

でも僕は、それを静かに聞いているだけ。止めたりしない。

何故なら、親友の辛さが、全てではないがわかるから。

『死なないで』や『生きろ』が辛いことを、知っているから。

本心では止めたかった。消えないでほしいって。

でも止めたら、君が苦しいだけだから。

せめて別れだけでも、言わせてほしいから。

僕は、君が居る海へと走る。


部屋に残るスマホ。そこにはLINEの画面。
僕からの『待って』と言う言葉。

そして、今送られてきた『ごめんね。』の文字。

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