─胸の鼓動─
何故今まで忘れていたのだろう。
大好きで一番大切な存在を。
僕の全てだった、父の事を。
思い出した瞬間、頭が痛くて、
息を吸うことしか出来なくて、
自分の胸の鼓動しか聞こえなくなって。
そうだった。
父は、僕が九歳の頃に、事故でなくなった。
いつまでもお人好しな人で。
その事故も、運転手が前を見ていなくて、
子供が轢かれかけたのを助けたんだって。
それを聞いた時は、何で死んだのか、
何で見ず知らずの子供を助けたのか、
何で僕を置いていったのか分からなくて、
ずっと泣いていたっけ。
その次の日から父が、
置いていったあの人のことが憎くて、
忘れたふりをしたんだっけ。
時が過ぎていくにつれ、過去のことだって飲み込んで。
全て忘れたと思ったのに、捨て忘れた父の手帳で思い出すなんて。
そもそも何で恨んでいたんだろうか。
いつまでも、愛して、優しくしてくれた父を。
最低なのは、僕の方だったんだたな。
9/9/2023, 6:50:37 AM