─喪失感─
何時からだろうか。
心に何か足りないと感じたのは。
胸の中が霧で覆われているような、何か黒いものが渦巻くような。
喪失感と言えば伝わるのだろうか。
失ったものは何もないと思う。
そのせいで不幸せと思うこともない。
むしろ幸せだ。
妻や子供、親友など、人望に恵まれ。
上司に期待される程、仕事に恵まれ。
家族が幸せだと言う程金運に恵まれ。
全て順調。幸せだと言える筈なのに。
何で、この胸の霧が晴れないのだろう。
そういえば、親友にこの事を相談したとき、不思議なことを言っていた。
『俺にはその原因が分かる。でもそれをお前が知った時───』
親友は、一回息を吸って言った。
『きっと後悔する。死にたくなる程に。』
最初は意味が分からなかった。
幸せなのに死にたくなるわけない、と。
ただ親友は、悲しそうな瞳を閉じ『思い出さない方がいい』と言った。
きっと本当なんだろう。原因を知っているのも、死にたくなるのも。
だから今の幸せが続くときまで、思い出さないよ。きっと。
9/11/2023, 7:20:30 AM