海月 時

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6/18/2024, 2:17:07 PM

『大好きだよ。』
彼が言ってくれた言葉。何でこんな事になったんだろ。

『元気してた?僕はすっごく元気だよ。』
笑顔で言う彼。彼の足元には影がなく、生きていない事が分かる。
「楽しそうだね。君に久しぶりに会えて嬉しいよ。」
『僕もだよ。』
彼は死んだ事によって、生まれ変わった様だった。生前では考えられない、陽のオーラを放っていた。その事は素直に喜ばしかった。
『今日は君と話をしに来たんだ。』
彼の表情は先程とは違い、真剣なものだった。
「君も私を否定するの?」

彼は一年前に病死した。病気だと知った時から、彼の表情からは笑顔が消えていた。私は、彼を喜ばせようとした。しかし、彼は死ぬまで笑う事はなかった。彼が死んでから、私の世界は崩れた。それ程までに、彼の存在は私には大きかった。彼に会いたい。その気持ちは次第に溢れていく。死んだら会えるはず。そして私は、屋上に来た。

「私は君が好き。今までも、これからも君以上の人なんて居ない。だから、止めないで。」
分かっている。この思いは歪んでいる。誰も認めてはくれない。それでも、これが私の彼への愛の強さの証明だ。
『僕はね。見送りに来たんだよ。君は最後まで僕の傍に居てくれた。だから、最後ぐらい君の傍に居たいんだ。』
涙が止まらない。彼は私の手を取った。
『これからも一緒だよ。』
恐怖はなかった。ただ風だけが私を包んだ。

落下する先が、天国でも地獄でも何でもいい。彼と居れば、何処だってワンダーランドだ。

6/17/2024, 3:26:24 PM

【未来は変えられる。】
よく聞く言葉。変えられたとして何が残るんだ?

『ちょっと待って!』
目の前の彼が言う。どこかで見た事がある気がする風貌だった。しかし、今はそんな事どうだっていい。
「お前には関係ないだろ。止めるなよ。」
俺は目の前の彼を睨みつけた。しかし、彼は怖じ気付く事はなく、澄んだ瞳をして言った。
『まだ間に合う。今からでも、やり直せるよ。』
「お前に何が分かるんだよ!」
苛立ちから声を荒がった。そして、無意識に涙が出た。
「俺だって、普通に生きたかったよ。」

俺の両親は不慮の事故に遭い、他界した。そして、俺の人生は一変した。叔父夫妻に預けられた俺は、毎日奴隷の様に扱き使われた。最初はまだ良かった。しかし、段々と俺への扱いはエスカレートしていき、今では存在全てを否定されている。学校でも俺は、はみ出し者だった。両親がいない、可哀想な子供。そのレッテルを貼られ、周囲の態度が変わった。今では仲良かった奴らに虐められている。次第に、俺の心はすり減っていった。辛い。その言葉だけが頭を支配する。気付けば俺は、屋上に立っていた。

「人間って馬鹿だよな。世間体しか見てなくて、両親の居ない俺は、何の価値もないように見えているんだよな。」
『そうだよ。そいつらは愚かだよ。でもね。逃げようとする君はもっと愚かだよ。未来を捨てるな。』
彼の言葉には、優しさも強さも感じられた。
「お前に何が分かるんだよ。俺だって、立ち向かったよ。でも、駄目だったんだ。怖いんだ。」
『俺も、君と同じ境遇だった。それでも、生きた。足掻き続けた。自分のためではなく、未来のために。』
久しぶりに、心に温かさが宿った。俺もこんな風に未来に希望を持てるだろうか。持てたら良いな。
「ありがとう。大事な事を思い出した気がするよ。」
『良いよ。俺もそうだったから。』
「ところで君の名前は?」
俺が聞く。すると彼は少し悪戯ぽく微笑んだ。
『俺は、未来の君だ。』

俺はあの時、生きる事を諦めないで良かったと思う。俺の未来はきっと明るい。過去に戻って、同じ状況になっても、俺は同じ未来を選ぶだろう。

6/16/2024, 3:32:41 PM

「ずっと親友で居てくれる?」
彼女が聞く。昔は一緒に居るのが当たり前だったのに。

『久しぶりだね。』
彼女が言う。私は驚いた。目の前にいる彼女は確かに、一年前に亡くなったはず。それなのに生きている。
「生きてるの?」
『生きてはないよ。幽霊みたいなものかな。』
彼女は笑顔で答えた。誰もを引き寄せる笑顔は生前と変わらなかった。
『君に会いに来たんだよ。寂しかった?』
私は答えれなかった。しかし、一つの質問をした。
「幽霊になってまで、叶えたい事でもあるの?」
願いがなければ可怪しい。わざわざ、この世に来る理由なんて、余程の事だ。
『君に会いに来たんだってば。私を殺した君に。』

一年前まで、私達は親友だった。何をするのも一緒で、よく近所の人に姉妹だと言われた。〝ずっと親友〟これが、私と彼女の約束だった。しかし、私には悩みがあった。それは彼女の事だった。彼女と一緒に居れば居る程、周囲から私と彼女を比べられる事も多くなった。それが、私には苦痛でしかなかった。だから、事故に見せかけて殺した。

「ごめん。謝るから許して。お願い。」
我ながら自己保身しか考えていない、最低な言葉だ。それでも、謝るしかなかった。
『別に私を殺した事については、怒ってないよ。』
彼女は言った。じゃあ何しに来たんだ?
『私は、君が私との約束を破った事に怒ってるんだよ。』
そうか。私は気付かずに彼女との約束を破っていたんだ。その事にも気付かずに、軽い謝罪をしていたんだ。
「私は何をしたら、許してもらえる?」
涙が止まらなかった。今までの罪悪感が一気に溢れる。彼女が口を開く。その顔は、悍ましい程に美しかった。
『赦して欲しいなら、死んで?』

私はきっと、これからも後悔し続ける。一年前、あんな馬鹿な事しなければ良かった。
『これからもずっと親友だよ?』
私は一年前の罪からも彼女からも逃げられない。

6/15/2024, 2:17:16 PM

【ラブ&ピース】
この言葉が嫌いだ。世界はバッドエンドで溢れている。

「いつも何の本を読んでいるの?」
友人が聞いてくる。ここで普通は本の内容を簡易的に話すのだろう。しかし、俺は答えられない。
「適当だよ。でも、ハッピーエンドものが多いかな。」
これは嘘。いつも読んでいる本はバッドエンドもの。しかし、ここで正直に答えたら、後々面倒な事になる。厨二病だとか、陰キャだとか、色々言われる事になる。それだけは避けたい。だから、俺はいつも嘘を付く。

本は好きだ。本には真実も嘘も、正も誤も決められている。現実よりもよっぽど分かりやすい。俺もこんな世界に行きたい、そう思わせてくれる。それに比べて現実はどうだ。叶わない理想を並べるだけ。都合の悪い事には目を向けず、いつだって自分たちが正しいと思い込んでいる。実に狂った世界。しかし、こんな世界に俺は感謝している。本という生きる糧を見つけさせてくれたのだから。

ハッピーエンドよりもバッドエンド。正義よりも悪。何故これほどまでに、惹かれてしまうのだろうか。いつしか俺は、自分もこういう道を歩きたいと思っていた。きっとこの気持ちは、誰にも認められない。しかしそれこそが悪というものだろう。

「死。それこそが、人生のバッドエンドだ。」

俺は自殺をした。しかし、俺が求めていたものではなかった。死ねば、バッドエンドだ。そう思っていたのに、実際にやってみても何も思わない。そうか、分かった。きっと俺はどこかで死を望んでいたのだ。だから、願いが叶って喜びしか感じていないのだ。違う、これではハッピーエンドだ。俺の好きな本は、物語はバッドエンドだ。俺の終わりもバッドエンドで終わりたかった。

6/14/2024, 3:19:30 PM

『正解なんてないんだよ。』
彼が言う。俺はその言葉に心を奪われた。

『生きたいのか死にたいのか、あいまい過ぎだよ。』
彼がため息を付く。彼は死神らしい。そして俺は、彼に余命宣告をされた人間だ。元々この世に未練はなかった。それでも、死ぬのは怖いものだ。
「すみません。潔く死ねなくて。」
『君は謝らないで良いよ。僕もごめんね。勝手に余命決めて、死ねなんて言っちゃって。』
俺たちの間に沈黙が流れる。気まずい空気の中、俺が口を開ける。
「死神さんにとって、生きるって何ですか?俺、いまいち人生に意味持てなくて。」
『そうだなー。人生って人間の数だけあるんだから、意味なんてないんじゃないか。きっと正解なんてないんだ。』
彼の言葉で一気に腑に落ちた。俺は今まで、何を悩んでいたんだろう。生きる事も死ぬ事も意味なんてない。ただの人生の一部でしかないんだ。
「ありがとうございます。俺は自分が正しいと思った人生を生きます。あいまいなままは辞めます。」
俺がそう言うと、彼は微笑んだ。

『大丈夫?怖くない?』
「はい。もう大丈夫です。これは俺が選んだ、正しい道ですから。」
この道は正しい。あいまいではなくはっきりと言える。俺は屋上から空を見る。昼なのか夜なのか分からない、あいまいな空。そんな空の中に、俺達は消えていった。

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