「バイバイ。」
別れの決まり文句を言う彼女。僕は君に手を振る。
「物騒だね〜。」
彼女がネットニュースを見ながら言う。最近、通り魔殺人が多発しているそうだ。
「怖いね。今日も一緒に帰ろっか。」
彼女を守るために、僕は今日も彼女の家まで送る。僕と彼女は、ただの幼馴染だ。そして僕は、彼女に片思い中である。この思いが日々大きくなるのが分かる。でも、言わない。彼女との関係を壊したくないからだ。臆病な自分にため息が出る。
「今日もありがとうね。」
彼女の家についた。僕の君だけの、時間は瞬く間に終わりを迎えた。もう少し居たい。そんな事を思いながら、僕は自宅に向かった。
数日が経った日。僕は彼女に告白しようと思う。関係が壊れるのは怖い。それでも、前には進めるはずだ。
「ずっと前から好きだ。」
彼女の目が潤んだ。そして、笑顔で言った。
「私も好き!」
喜びの余り、僕達は泣いていた。今日から彼氏彼女だ。僕達は、何時間も両片思い期間の話をした。そして、笑った。これからの話もした。どこに行きたいか、何をしたいか、たくさん話した。いつの間にか、辺りは真っ暗だ。
「「バイバイ」」
二人でそういった時、視界が揺れた。そして、地面には真っ赤な水溜りが出来ていた。僕は、倒れた。彼女の方からも倒れる音がする。本能で分かる。僕達は死ぬのだ。別れは突然来るんだな〜、なんて呑気な事を考える。僕は掠れた声で言う。
「一緒だよ。」
彼女と天国で会えるなら、死んでも良い。
「今日も空が綺麗だね。」
私が言う。私達は笑い合った。
「死にたい。」
彼女が虚ろな目で言う。私は何も言えなかった。私と彼女は、幼馴染だ。何をするのも一緒で、よく近所の人に姉妹だと勘違いされた。太陽のような笑顔を振りまく、彼女はもう居ない。今の彼女は、死体のようだ。
彼女の両親は、中学の時に亡くなった。交通事故だった。それからは、親戚の家に預けられていると聞く。そして、そこでは虐待に遭っている。彼女の苦しみに気付いておきながら、私が手を差し伸べる事はない。私はただ見ているだけだ。そんな最低な私のそばに、彼女は居てくれる。優しくしてくれる。それが余計、私を苦しめた。少しでも、彼女のためになりたい。そして決めたんだ。
「じゃあ、一緒に死のう。」
久しぶりに見た、彼女の笑顔は泣きそうな笑顔だった。
今私達は、屋上に居る。ここで飛び降りるのだ。
「何で、一緒に死のうって言ってくれたの?」
彼女が聞く。当然の質問だ。私は答える。
「君はいつでも私のそばに居てくれた。だから、君が死ぬなら私も一緒がいいって思ったんだ。」
本当は君の事が好きで、君が居ない世界が怖いだけって言ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
「ありがとう。」
彼女が言う。本当に君は馬鹿な人。私の本心も知らずに。でも、いいんだ。それでこそ、私が愛した人だから。
「死んでも一緒だよ。」
私は彼女に言った。そして、私達は飛び降りた。
死を望む彼女。少し異質な恋をした私。二人の人生も、私の恋物語も、これにて終幕だ。
『今日は風が気持ちいいですね。』
私は何を言わず、彼の声に耳を傾けていた。
『夜更かしは健康に悪いですよ。』
彼が私を心配そうに見つめながら言う。今の時刻は丑三つ時。皆が眠りに就いている時間だ。そんな中、私はベランダに立っている。彼と話すために。
「大丈夫だよ。私は頑丈だから。」
無理やり笑顔を貼り付ける。いつからだろう。眠るのが怖くなったのは。そうだ。あれは確かー。
私と彼は恋人同士だ。私達の間には確かな愛があった。これからも一緒。そう思っていた矢先に、彼が死んだ。不慮の事故だった。私の世界が音を立てて崩れていった。私は毎日泣いた。しかし、どんなに辛くても日は昇り、世界は回る。その事がより、私を苦しめた。死にたい。その言葉が頭に浮かぶ。気付いた時には、私は自宅のマンションのベランダに立っていた。しかし、飛び降りる事はなかった。白い翼が生えた彼が居た。彼は静かに月を見ていた。
あの日から私は、眠るのが怖かった。眠っている間に彼が消えてしまいそうだから。でも、少し疲れたよ。
「死にたいって言ったら、どうする?」
彼に聞く。彼は微笑みながら答えた。
『逢いたいって言います。』
涙が零れる。彼は昔から、私を肯定してくれた。今でも、私への逃げ道をくれる。誰よりも優しい、私の彼氏。
「ありがとう。私も逢いたい。」
私達の目には涙が溜まっていた。
私は今日、死ぬ。自らの命を断つ。でも、自然と恐怖はない。彼が見守っているから。
「月が綺麗だね。」
『これからも、一緒に見ましょうね。』
私は、皆が寝静まった真夜中に、永遠の眠りに就いた。
「ずっと一緒だよ。」
彼女が言う。僕は小さな声で、嘘つきと呟く。
「私、もうすぐで死ぬんだ。」
彼女は涙目になりながら、平然を装うように言った。やっぱり。薄々気づいていた。それでも、知らないフリをして黙っていた。彼女の死が怖かったんだ。そんな足掻きは、今では無だ。僕たちは、静かに泣いた。
僕は最後の日まで、彼女のそばに居続けた。だんだん弱っていく彼女を見るのは、心が痛んだ。それでも、見届けないと。それが彼女を愛したものの義務だ。僕は、彼女の前では、涙を堪え作り笑顔を貼り付けた。
彼女の死から何日が経っても、僕の世界は真っ暗だった。それほどまでに、彼女の存在は大きかったのだ。
「愛は世界を救う。なんて、馬鹿らしいよな。」
愛があっても、彼女は救われなかった。世界は残酷だ。綺麗事ばかり並べやがって。僕は世界を睨みつけた。
『君はすごいね。世界に向き合えているんだね。』
懐かしい声に、振り向く。そこには、彼女が居た。
『私は逃げてばっかだったな〜。死ぬのが怖かったんだ。でもね。君のお陰で私は、息ができたんだよ』
ありがとうと彼女は言い、姿を消した。
僕は今、君が死んだ病院の屋上に居る。
「僕も、世界が現実が怖いよ。でもね。君が僕の太陽になってくれたから、僕は生きれたよ。」
愛してると言った。愛なんて幻想に過ぎない。愛があっても何も変わらない。それでも、今日だけは愛に感謝した。愛があったから、僕は彼女の下に逝けたんだ。
「大嫌いだ。」
俺が言う。しかし、アイツは笑っていた。
「お前なんか消えてしまえ。」
両親が俺に言う。今思えば、昔から両親に愛された事はなかった。俺の弟は、生まれつき病弱だった。学校にもあまり行けていなかった。それなのに、あいつは天才だった。大人でも手こずるような問題も余裕で解けてしまう。俺とは正反対の弟。当然ながら、両親は弟を愛し、出来損ないの俺を忌み嫌っていた。俺がどれだけ努力しても両親は俺を見ることはなかった。
「何で産まれてきたんだ?」
父からの言葉だ。その言葉を聞いた時、俺の中の何かが千切れる音がした。
気付いた時には、俺の周りは赤い水溜まりが広がっていた。俺は両親を殺したのだ。人を殺したのに、俺の頭は落ち着いていた。重りが消えたように、心が軽かった。
「お前らが勝手に産んだガキに殺されて、ざまぁねーな!地獄に堕ちやがれ!」
何を言っても返事は来ない。なんて良い日なんだ。だが、俺にはやり残した事がある。俺は弟の部屋に向かった。
部屋に入ると、弟は俺の異変に気付き、顔をしかめた。
「父さん達は?」
「殺したよ。お前も後を追わせてやる。」
弟は、そっかと呟き、悲しそうに俺に聞いた。
「僕の事、嫌いだったの?」
「大嫌いに決まってるだろ。」
「僕は兄ちゃんの事、大好きだよ。だから、兄ちゃんに殺されるなら、いいよ。」
いざ殺そうとすると、手が震える。それでも、俺は自分のために弟を殺した。
何日、何ヶ月過ぎても俺は捕まらない。弟を殺した時は、後悔した。今でも思う。俺が変な意地を張らなければ、生きている内に仲良くなれたのかな?でも、もういいんだ。
『兄ちゃん!』
弟が呼ぶ。生前では考えられない程、活発な弟。俺はそれが、どんなことよりも嬉しかった。結局は、弟が大好きなようだ。俺達は、死んでも兄弟なんだ。