海月 時

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『今日は風が気持ちいいですね。』
私は何を言わず、彼の声に耳を傾けていた。

『夜更かしは健康に悪いですよ。』
彼が私を心配そうに見つめながら言う。今の時刻は丑三つ時。皆が眠りに就いている時間だ。そんな中、私はベランダに立っている。彼と話すために。
「大丈夫だよ。私は頑丈だから。」
無理やり笑顔を貼り付ける。いつからだろう。眠るのが怖くなったのは。そうだ。あれは確かー。

私と彼は恋人同士だ。私達の間には確かな愛があった。これからも一緒。そう思っていた矢先に、彼が死んだ。不慮の事故だった。私の世界が音を立てて崩れていった。私は毎日泣いた。しかし、どんなに辛くても日は昇り、世界は回る。その事がより、私を苦しめた。死にたい。その言葉が頭に浮かぶ。気付いた時には、私は自宅のマンションのベランダに立っていた。しかし、飛び降りる事はなかった。白い翼が生えた彼が居た。彼は静かに月を見ていた。

あの日から私は、眠るのが怖かった。眠っている間に彼が消えてしまいそうだから。でも、少し疲れたよ。
「死にたいって言ったら、どうする?」
彼に聞く。彼は微笑みながら答えた。
『逢いたいって言います。』
涙が零れる。彼は昔から、私を肯定してくれた。今でも、私への逃げ道をくれる。誰よりも優しい、私の彼氏。
「ありがとう。私も逢いたい。」
私達の目には涙が溜まっていた。

私は今日、死ぬ。自らの命を断つ。でも、自然と恐怖はない。彼が見守っているから。
「月が綺麗だね。」
『これからも、一緒に見ましょうね。』
私は、皆が寝静まった真夜中に、永遠の眠りに就いた。

5/17/2024, 3:25:50 PM