息を吸って 息を吐いた先
朝目覚めて コーヒーを手にした時
言うか言うまいか悩んで 結論を出した時
やりたいと「思う」だけでなく
やりたい事に「アクション」を起こした時
右足を出して 考え
左足を右足よりも先へ向けて出した時
心で思って
言葉に出して
全身を使って行動した時
過去は一秒前 そして
いまは刹那
大きく息を吐いて
コーヒーを手にして
「言葉にする」と結論を出して
アクションを起こし
歩み始め、全能力を絞り出す
だからもう すでに「未来」
「1年前」
高校前にあるバス停
まだ君を知らない頃
この場所はなんてことのない
ありふれた場所だった。
中学校からの帰り道
大勢の高校生がふざけあって
小さなバス停にたむろして
一時間に二本「しかない」バスを待つ。
中学生の僕は
大きな声の男子高校生が苦手で
傍を通る時はドキドキして怖くて
いつだって 下を向いて
足早に通り過ぎた場所だった。
いま僕はその高校生になり
君が乗るための
一時間に二本「も」あるバスを
君と話しながら待つ。
まだ君の声を聞いていたい
まだ君の表情を見ていたいのに
もうバスが来てしまう。
君が行ってしまう。
一年前と風景は変わらないのに
こんなにこの場所を特別に思えるなら
こんなにこの場所をいとしく思えるなら
君が笑っていれば きっと
君がそばにいれば きっと
僕はもう 下を向いて
足早に通り過ぎる場所なんて
この世のどこにだって
なくなるに違いない
一年前、
そしていま、
そして……未来
「1年前」
「好きな本」
没頭して本を読んでいくと、
油断しきった むき出しの心が
唐突にズタズタになることがある。
私はこの物語の主人公の直ぐ側に
こうして寄り添っているのに
何もしてあげられないもどかしさ。
あるいは、この私こそ
あなたに救われたくて
手を差し伸べるのに
空を掴むだけで
壮大な物語は
私を除いた 私以外の者共だけで
完璧な調和を保ち The Endを迎える。
私一人を置いてけぼりにして。
だから私は
毎夜、こうして文章を連ねる。
何よりも自分が救われたいがために。
何よりも自分が傷ついているがために。
好きな本。
それは私が いまこうして纏う
私自身の鎧となり
私自身の武器そのものである。
より強く より高く より遠く
それらはいつか
究極の武器となろう。
「好きな本」
「あいまいな空」
校舎を出ようとすると
外は雨
朝は晴れてたのに
この季節ときたら油断ならない。
最寄りのバス停まで25分、
小止みになるのを待つか、
反対方向へ走って10分のコンビニで
傘を買うか 決めあぐねていると
「美貴?」
振り返るとクラスメイトの由佳だった。
「傘ないの?」
「うん。
天気予報聞きそびれちゃってさ」
ふうん。と言いながらカバンから
折り畳み傘を出す由佳。
タイミングをみはかって
バイバイ、また明日 を言おうかと
ぼんやり眺めていると
「どうしたの?
入って行くんじゃないの?」
え……。
彼女にはいつもドギマギさせられる。
同じ女性なのに
なんだか男前。
「あ、ありがとう……」
あじさい模様の傘に入ると
「カバン、外側に持ってね」
といって躊躇わずに
私に腕を絡ませる。
なんでドキドキするんだろう。
「ごめんね、狭くなって。」
照れ隠しにそういうと
「気にしないで。
こんなあいまいな空の日は
傘を持ってくることにしてるから。
だから、よかったね。」
と微笑む由佳。
よかったね、 私が?
それとも 由佳が?
私の頬も、由佳の頬も
傘のあじさいの花の色を映して
ほんのり染まる
まだあいまいな この季節
まだあいまいな この気持ち
あいまいなのも 悪くない
「あいまいな空」
「あじさい」
薄紫の髪飾り
あるいは青い髪飾り
淡い桃色
あるいは紫
色とりどりの姉妹達
ドレスを纏う私達
けれど私の本質は
ドレスと髪飾りのその奥の
隠れた小さな目立たぬ姿
小さな胸のその前で
目を閉じ ゆるりと手を合わせ
神に祈りを捧げます
私を見つけてくれるのは
私に気づいてくれるのは
どこのどなたでありましょう
雨に遭っても歌うたい
誰も気づかぬ山の端で
姉妹は祈りを捧げます
ある日宮司が目を留めて
境内の手水に連れてきた。
青や桃色 紫の
水に浮かぶは 姉妹たち
手水の中からくるくると
ひらめくドレスと髪飾り
哀しき 小さなあじさいは
ただただ かれを待つばかり
いつか迎えに来てくれる
あなたの愛を待つばかり
「あじさい」