「好き嫌い」
気づいたら クラスで浮いていた。
どんなきっかけなのか
自分では見当もつかない。
ゲームのルーレットを回して
針が止まった子を
「3,2,1……スタート」で
生贄にするように
クラスみんなが、一斉に
よそよそしくなった。
話しかけても会話が続かない。
避けられたり、ものがなくなったり、
プリントが回ってこなかったり。
私はただ 他人事のように
周りを観察した。
人を好きになる気持ちって
自分では止められない。
気づいたら好きになっている。
誰にでも覚えのある感情だ。
ということは
人を嫌いになる気持ちだって
止められないのだろう。
誰にでも覚えのある感情だ。
人と人との交わりは
好きと嫌いを織り合わせた短編小説。
だから
「どうして私を避けるの?
どうして私を嫌うの?」
などと問いただすのは愚の骨頂。
本人にすら説明がつかないのだから。
なるほど。
そういうことよ。
独り言をいいながら
納得しての帰り道。
「そういうとこだよ!」
数々の「カワイイ嫌がらせ」に
全然動じない私に
リーダー格のエリカが
私の後ろで 憎々しげに吐き捨てた。
ん?
振り返りながら
私は彼女に笑顔を向けた。
私はカワイイあなたが好きだけど
あなたは私が嫌いなのね?
好きも嫌いも ご自由に。
私も自由にさせてもらうわ。
小首をかしげて笑顔の私と
唇をかみしめて怒る貴女の短編小説。
「好き嫌い」
「街」
丘の上に一本の大きな木があって
その木を気に入った神様が
木の根元に小さな社を建て
お住まいになられました。
しばらくすると、年老いた夫婦が
「素敵な丘ですね。
右隣に家を建ててもいいですか?」
と神様に挨拶に訪れました。
神様は「勿論ですよ」と答えました。
もうしばらくすると
小さな子どもを2人連れた夫婦が来て
「この木には昆虫も集まるでしょう。
子どもたちを喜ばせたいので
左隣りに家を建ててもいいですか?」
と神様にお願いしました。
神様は「勿論ですよ」と答えました。
次に食堂を開きたい夫婦が、
また仕立て屋を始めたい女性が
靴屋の若者が、パン屋の男が
大工が 花屋が 学校の教師が
次々に神様に
「ここは素敵な場所ですね」といって
「住んでもいいですか?」と訊ねました。
神様は「勿論ですよ」と答えました。
大きな木のある丘には
多くの家が建ちました。
みんな最初の木のことや
神様が「勿論ですよ」と
自分たちを迎えてくれたことを
決して忘れませんでした。
子の代、孫の代までも。
優しくて感謝に満ちた村でした。
そのうち、新しく家を建てるものが
次々と現れました。
「家がたくさんあるのだから
一軒増えても構わないだろう」
「自分の好きなように家を建てよう。」
「好きなだけ広く土地を囲もう。」
「もっと広い土地が欲しい」
「川を埋め立てよう」
「森を切り拓こう」
村にはそんな見知らぬ余所者たちが
どんどん増えていき
ついには丘の木を切り倒し
社を壊し、平地にしました。
騙し、騙され、盗み、盗まれ、
殴り、殴られ、殺し合う
誰も他人を信じない、
誰も神様に感謝をしない
いつの間にか村は
そんな集落になりました。
そんな集落、
それを「街」といいます。
「街」
「やりたいこと」
今日は休みの日だというのに
早く目が覚めてしまった。
いい天気だ。
早く洗濯機を回さなきゃ。
パンを切ってトースターに入れて
アイスコーヒー作らなきゃ。
パンが焼けるまで 新聞読んで
メールチェックしなきゃ。
SNS facebook Twitter
LINE 確認したら
アプリの更新しなきゃ
冷蔵庫を開けて
買い足す必要のあるものは?
牛乳と、リンゴジュース
冷凍ピザに期間限定フレーバーアイス
次々にスマホのメモに保存して。
あ、パンが焼けたみたい。
サクサクのうちに食べなきゃ。
氷が溶けないうちに
アイスコーヒーもひとくち
これらは 実のところ
わたしのやりたいことじゃない。
ほぼほぼオートマチックに
わたしの頭の上で悪魔が
糸を操るマリオネット人形として
やらなきゃならないと思い込んでいること
やりたいことは
口にすることが許されるなら
それは 二度寝
ほんとうはなにもやりたくないんだもの
「やりたいこと」
家から遠く離れたその女子校は
バスと電車を乗り継いで
学校につく頃になって
ようやく寒い夜が明けはじめる。
進学校であるその高校は
「ゼロ時限目」という
SFのような呼び名の課外授業があった。
一日中教室に缶詰で、
ビッシリとカリキュラムが組まれ
暗くなってから校門を出る毎日。
地元の友もなく、校内に友もない。
暗いうちに家を出て
暗くなってから帰宅する。
暗さに慣れた私にとって
朝日の眩しさは
妙に余所余所しい。
私を見ていたはずの月は、
結局 朝日に従い
「右を向きなよ」と言われれば右を向き
「こっちに来なよ」と言われれば消え
「あの子に構うなよ」と言われれば
私を無視した。
私は自分が凍えていることを
とっくに知っている。
月の穏やかな微笑みも
朝日の温もりも
自分には空々しいまやかしだった。
自分には悍ましい毒草だった。
高校最後の日の帰り道
私は独り 闇夜に咆哮をあげる。
胸の奥に灯がともり
凍えた身体を温め始める。
結局のところ
自分の武器は自分だけのものだ。
たとえ真っ暗な闇夜に居ても
私には 恐れるものは何もない。
そして私は 顔を上げて
一歩、前へ。
「朝日の温もり」
ノンフィクション
「岐路」
人生で「岐路に立たされる」、
とは言うけれど
本当は立たされているのではなく
自分の意志で立っている。
人生に絶望して自らの死を選ぶ者がいる。
もしくは来た道を後戻りし
別の道を探る者もいる。
その岐路でしばらく悩み
どちらかを選択し、歩み出す者もいる。
ゲームではダンジョンやビルの中
どちらへ向かおうか、
自分の意志で選び歩む。
その結果、選んだ道で
三角頭の青い怪物に遭遇したり
手強いゾンビに襲われたりして
YOU LOSE となるわけだが
ため息一つで いくらでもやり直せる。
そう リアルな人生も
ため息一つでやり直せばいいのだ。
袋小路(DEAD END)ではなく
いくらでも抜け道はあり
来た道を後戻りすることすら可能だ。
死など選ぶ必要はないのだ!
大人はゲームに眉をひそめるけれど
こうして私達は人生を学ぶ。
こうして私達は成長するのだ。
そう。
だから、お願いします。
お母さん。コントローラー返して?
母は冷たい眼差しを私に向け
眼の前で 部屋をピシャリと閉めた。
私はうつむいて 来た道を戻り
自室に籠もり
なんとか別の道を探ることにした。
「岐路」