maria

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家から遠く離れたその女子校は
バスと電車を乗り継いで
学校につく頃になって
ようやく寒い夜が明けはじめる。

進学校であるその高校は
「ゼロ時限目」という
SFのような呼び名の課外授業があった。
一日中教室に缶詰で、
ビッシリとカリキュラムが組まれ
暗くなってから校門を出る毎日。
地元の友もなく、校内に友もない。

暗いうちに家を出て
暗くなってから帰宅する。
暗さに慣れた私にとって
朝日の眩しさは
妙に余所余所しい。

私を見ていたはずの月は、
結局 朝日に従い
「右を向きなよ」と言われれば右を向き
「こっちに来なよ」と言われれば消え
「あの子に構うなよ」と言われれば
私を無視した。

 
私は自分が凍えていることを
とっくに知っている。


月の穏やかな微笑みも
朝日の温もりも
自分には空々しいまやかしだった。
自分には悍ましい毒草だった。


高校最後の日の帰り道
私は独り 闇夜に咆哮をあげる。
胸の奥に灯がともり
凍えた身体を温め始める。

結局のところ
自分の武器は自分だけのものだ。
たとえ真っ暗な闇夜に居ても 
私には 恐れるものは何もない。



 そして私は 顔を上げて

        一歩、前へ。



    「朝日の温もり」 

        ノンフィクション

6/9/2023, 1:57:31 PM