maria

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「街」

丘の上に一本の大きな木があって
その木を気に入った神様が
木の根元に小さな社を建て
お住まいになられました。

しばらくすると、年老いた夫婦が
「素敵な丘ですね。
右隣に家を建ててもいいですか?」
と神様に挨拶に訪れました。
神様は「勿論ですよ」と答えました。

もうしばらくすると
小さな子どもを2人連れた夫婦が来て
「この木には昆虫も集まるでしょう。
子どもたちを喜ばせたいので
左隣りに家を建ててもいいですか?」
と神様にお願いしました。
神様は「勿論ですよ」と答えました。

次に食堂を開きたい夫婦が、
また仕立て屋を始めたい女性が
靴屋の若者が、パン屋の男が
大工が 花屋が 学校の教師が

次々に神様に
「ここは素敵な場所ですね」といって
「住んでもいいですか?」と訊ねました。
神様は「勿論ですよ」と答えました。

大きな木のある丘には
多くの家が建ちました。
みんな最初の木のことや
神様が「勿論ですよ」と
自分たちを迎えてくれたことを
決して忘れませんでした。
子の代、孫の代までも。

優しくて感謝に満ちた村でした。





そのうち、新しく家を建てるものが
次々と現れました。

「家がたくさんあるのだから
 一軒増えても構わないだろう」

「自分の好きなように家を建てよう。」

「好きなだけ広く土地を囲もう。」

「もっと広い土地が欲しい」

「川を埋め立てよう」

「森を切り拓こう」


村にはそんな見知らぬ余所者たちが
どんどん増えていき
ついには丘の木を切り倒し
社を壊し、平地にしました。

騙し、騙され、盗み、盗まれ、
殴り、殴られ、殺し合う

誰も他人を信じない、
誰も神様に感謝をしない

いつの間にか村は
そんな集落になりました。

そんな集落、




     それを「街」といいます。





「街」

6/11/2023, 2:22:03 PM