maria

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6/16/2023, 10:56:01 AM

「1年前」

高校前にあるバス停


まだ君を知らない頃
この場所はなんてことのない
ありふれた場所だった。
中学校からの帰り道
大勢の高校生がふざけあって
小さなバス停にたむろして
一時間に二本「しかない」バスを待つ。

中学生の僕は
大きな声の男子高校生が苦手で
傍を通る時はドキドキして怖くて
いつだって 下を向いて
足早に通り過ぎた場所だった。



いま僕はその高校生になり
君が乗るための
一時間に二本「も」あるバスを
君と話しながら待つ。

まだ君の声を聞いていたい
まだ君の表情を見ていたいのに
もうバスが来てしまう。
君が行ってしまう。


一年前と風景は変わらないのに

こんなにこの場所を特別に思えるなら

こんなにこの場所をいとしく思えるなら

君が笑っていれば きっと

君がそばにいれば きっと 

僕はもう 下を向いて

足早に通り過ぎる場所なんて

この世のどこにだって

       なくなるに違いない

一年前、

  そしていま、

     そして……未来



            「1年前」




6/15/2023, 1:34:54 PM

「好きな本」


没頭して本を読んでいくと、

油断しきった むき出しの心が

唐突にズタズタになることがある。

私はこの物語の主人公の直ぐ側に

こうして寄り添っているのに

何もしてあげられないもどかしさ。


あるいは、この私こそ

あなたに救われたくて

手を差し伸べるのに

空を掴むだけで

壮大な物語は 

私を除いた 私以外の者共だけで

完璧な調和を保ち The Endを迎える。

私一人を置いてけぼりにして。






だから私は

毎夜、こうして文章を連ねる。

何よりも自分が救われたいがために。

何よりも自分が傷ついているがために。



好きな本。 

それは私が いまこうして纏う

私自身の鎧となり

私自身の武器そのものである。

より強く より高く より遠く 

それらはいつか

究極の武器となろう。


          「好きな本」

6/14/2023, 1:16:09 PM

「あいまいな空」


校舎を出ようとすると
外は雨
朝は晴れてたのに
この季節ときたら油断ならない。

最寄りのバス停まで25分、
小止みになるのを待つか、
反対方向へ走って10分のコンビニで
傘を買うか 決めあぐねていると

「美貴?」

振り返るとクラスメイトの由佳だった。

「傘ないの?」

「うん。
 天気予報聞きそびれちゃってさ」

ふうん。と言いながらカバンから
折り畳み傘を出す由佳。

タイミングをみはかって
バイバイ、また明日 を言おうかと
ぼんやり眺めていると

「どうしたの?
 入って行くんじゃないの?」

え……。
彼女にはいつもドギマギさせられる。
同じ女性なのに
なんだか男前。

「あ、ありがとう……」
あじさい模様の傘に入ると
「カバン、外側に持ってね」
といって躊躇わずに
私に腕を絡ませる。

なんでドキドキするんだろう。
「ごめんね、狭くなって。」
照れ隠しにそういうと

「気にしないで。
こんなあいまいな空の日は
傘を持ってくることにしてるから。

だから、よかったね。」

と微笑む由佳。

よかったね、  私が?
それとも  由佳が?

私の頬も、由佳の頬も
傘のあじさいの花の色を映して
ほんのり染まる

まだあいまいな この季節

まだあいまいな この気持ち

    あいまいなのも 悪くない


         「あいまいな空」

6/13/2023, 10:51:30 AM

「あじさい」

薄紫の髪飾り
あるいは青い髪飾り
淡い桃色
あるいは紫
色とりどりの姉妹達

ドレスを纏う私達
けれど私の本質は
ドレスと髪飾りのその奥の
隠れた小さな目立たぬ姿

小さな胸のその前で
目を閉じ ゆるりと手を合わせ
神に祈りを捧げます


私を見つけてくれるのは
私に気づいてくれるのは
どこのどなたでありましょう

雨に遭っても歌うたい
誰も気づかぬ山の端で
姉妹は祈りを捧げます


ある日宮司が目を留めて
境内の手水に連れてきた。

青や桃色 紫の
水に浮かぶは 姉妹たち

手水の中からくるくると
ひらめくドレスと髪飾り


哀しき 小さなあじさいは

ただただ かれを待つばかり

いつか迎えに来てくれる

   あなたの愛を待つばかり


          「あじさい」

6/12/2023, 2:07:11 PM

「好き嫌い」

気づいたら クラスで浮いていた。
どんなきっかけなのか
自分では見当もつかない。

ゲームのルーレットを回して
針が止まった子を
「3,2,1……スタート」で
生贄にするように
クラスみんなが、一斉に
よそよそしくなった。
話しかけても会話が続かない。
避けられたり、ものがなくなったり、
プリントが回ってこなかったり。


私はただ 他人事のように
周りを観察した。

人を好きになる気持ちって
自分では止められない。
気づいたら好きになっている。
誰にでも覚えのある感情だ。

ということは
人を嫌いになる気持ちだって
止められないのだろう。
誰にでも覚えのある感情だ。

人と人との交わりは
好きと嫌いを織り合わせた短編小説。

だから

「どうして私を避けるの?
 どうして私を嫌うの?」

などと問いただすのは愚の骨頂。
本人にすら説明がつかないのだから。


なるほど。
そういうことよ。
独り言をいいながら 
納得しての帰り道。


     「そういうとこだよ!」


数々の「カワイイ嫌がらせ」に
全然動じない私に
リーダー格のエリカが
私の後ろで 憎々しげに吐き捨てた。


ん? 

振り返りながら
私は彼女に笑顔を向けた。

私はカワイイあなたが好きだけど
あなたは私が嫌いなのね?

好きも嫌いも ご自由に。

   私も自由にさせてもらうわ。

小首をかしげて笑顔の私と
唇をかみしめて怒る貴女の短編小説。




          「好き嫌い」




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