ネジが外れたウサギ

Open App
8/24/2025, 6:07:45 AM

遠雷が聞こえる。

誰かが遠くのあの人の地雷を踏んだようだ。

きっと「あの人」は、普段は物静かな人なのだろう。

だから、黙っていた地雷を踏まれて今雷が鳴っている

孤独を気付いてないふりをして

暴言や暴力を受けても心を押し殺した。

毎日、必死に耐えていたあの人は、

地雷を踏まれたことによって、ようやく心をひらけた

言いたかったことを声に出した時、

その人はようやく、『自分』を表せた。

遠雷は誰かの心の叫びなんだ。

8/22/2025, 9:01:30 AM

「俺は太宰の人間失格のように、恥の多い人生を送ってきた」

そうあなたが言った時、私は確信した。


「この人は私の片割れだ」


あなたとは違う形で私も似た境遇を経てきた。

親に恵まれず、友達すらできなくて、

学校の先生にも疎まれて。


学校とは変わり者をいじめる場所だと思った。

社会とは壊れてなくても電池を抜かれた時計は

使われなくなり、排除する世界だと思った。


そんな理不尽な世界で私とあなたは出会った。

「二人の特技が才能と思える国へ行こう」

あなたは突然そう言って、

着の身着のままの私を空港へ連れ出した。


「私に特技なんてない」

あなたに正直に言った。


「そんなことない。

君には経験を言葉にできる力がある。

俺は下手だけど、絵を描くことができる。

君の好きな文章を書き、それに合わせた絵を俺が描く

それを評価される国へ行こう」


似たもの同士だと思っていたあなたが

成功者のような手の届かない高くそびえるエベレストのように思える。


「大丈夫だよ。恥の多い人生は他にはない魅力がある

君はまだ知らないだけだ。

海外には見知らぬ世界が広がっていることを。

君と飛び立ちたい、そう、君がいいんだ」


あなたがその一言を言い放った時、

眼は潤んでいた。

8/11/2025, 6:28:35 AM

やさしさなんていらないと思っていたけど

やさしさには本物と偽物がある。

ちょっとした行為でもらえる本物と、

買ってもらえる偽物。


ちょっとした行為は「大丈夫」などの励ましの言葉や

困ってる人に手を出してあげる。

それだけでやさしさを相手に与えて自分に返ってくる


だけど、買ってもらえる偽物のやさしさなんて

お金がいくらあっても足りない。

本物より高く感じるやさしさだけど、

偽物はソフビ人形のように中身は空っぽなんだから。


やさしさなんて。

そう思って縁から遠ざかるのはもったいないと思う。

8/5/2025, 6:14:47 AM

温暖化で地球がレトルトカレーのように沸騰したお湯で

温められるようになって何年経つだろう。


秋の風物詩が秋を何となく知らせてくれて

あっという間に秋は終わる。

そして、冬が来ると冷凍庫のように冷えて大雪が降る

冬が滞在している間は、私はなぜか心地いい。

温かいものを食べて温かい布団でぐっすり眠れる冬が

私は好きなんだと思う。

その『思う』は夏が来ると腑に落ちる。


春という季節はどんな気候だったか思い出せない。

それくらい春が昔のような気がして気づいたら夏だ。


「ただいま、夏」と言うよりも

「おかえり、夏」の方が正しいと思う。


なぜなら、私は当たり前のようにやってくる季節に

会いに行くよりも待ち望んでいる気がするから。


「おかえり、夏。また会いに来てくれたんだね」

そう思っていた一昔前よりも

グラグラ温められるレトルトカレーの地球の夏の今は

今すぐにでも冬に続くどこでもドアを探して

「ただいま、冬」と言いたい。

7/31/2025, 6:36:14 AM

明日、バスケ部のインターハイの決勝戦がある。

私は美術部だし、バスケ部に友達はいない。

だけど、優勝のあの約束を交わした彼がいるから

すでに今からドキドキが止まらない。

あの日、あんなことが無ければ今頃何をしてたのか。

今でも運命というものに少し憎しみを抱く。


私は体育の授業中、転んで膝を擦りむいた。

校舎の前にある水道で

痛みを我慢しながら流水で流している時、

彼は声をかけてきた。

「痛そうー。大丈夫?保健室まで連れてくよ」

その優しさで心に水がしみた。

お姫様抱っこやおんぶとかしてくれるって言ったけど

恥ずかしいから、肩を借りた。

そこから保健室までそんなに距離はないはずなのに

やけに遠く感じる。

きっと、この熱い鼓動のせいだ。


保健室に着いて彼に礼を言った。

「君に話があるから先生に手当てをしてもらうまで

ここにいてもいいかな?」

彼はそう言って保健室の前の廊下で鼻歌を歌っていた


(話ってなんだろう)

そう思えば思うほど鼓動は熱く、さらに速くなる。


廊下に出ると彼はなぜか子犬のようにしっぽを振って

私を笑顔で出迎えた。


「話って何?」

「俺さ、ずっと見てたんだよね」

「え?」

「いつも体育館の二階でスケッチブックを持って

真剣な目で何かを描いてる君を」

(その、理由を、言わなきゃいけないのかな)

私の目は泳いでいただろう。

彼は私の目を見て微笑みながら返事を待っている。


「いいよ。何を描いてるか無理に言わなくても。

ただ、その絵を見たいなって思って」

私の鼓動はピークを達していた。

もう無理だ。

「ご、ごめんなさい。私、授業に戻らなきゃ」

そう言って踵を返した時、彼は私の腕を掴んだ。



「あのさ、俺。今年の夏休みが最後のインターハイなんだ。

ある約束してくれたら、もっと俺頑張るからさ。

ダメかな?」

「約束?」

「君がいつも誰の絵を描いてるか知りたいんだ。

優勝したら俺に絵を見せてほしい。

君の傑作でいいからさ」


私は笑顔で頷いて「頑張ってくださいね」と言った。



Next