僕にはたった一人の親友がいた。
気の置けない心の拠り所になるかけがえのない人。
でも、彼よりも僕はあの女生徒を愛していた。
そして、彼もまたその彼女を愛していた。
漫画になりやすいこの三角関係。
僕は親友を裏切るのを恐れていた。
親友も恋人も手にするなんて虫が良すぎる。
だから、僕は親友に嘘をついた。
「君が好きなあの子のタイプはユーモアのある人だ」
彼は人を楽しませる秀才だ。
それを利用した。
しかし、僕たちのアイドルの本当の好みを知らない。
それが落とし穴だった。
それを知らずに親友は告白すると心に決めてしまった
親友が立ち向かう背中を見て僕のほっぺに涙が伝う。
のちにわかったことだが、
彼女はお笑いのユーモアなど求めてなかった。
本当は音楽のセンスがある人を好んでいた。
親友は楽器を弾くのが苦手で楽譜も読めない。
僕は楽譜は読めるが楽器はあまり得意ではない。
親友は一週間、学校を休んだ。
何も告げず俺の元を去ってしまった元カノは
今頃、どこで何をしているのだろう。
付き合っていた頃の元カノのLINEのアカウントは
もう存在しない。
アイツは自分の今の気持ちを短歌にして
自分のLINEのステータスメッセージに書いていた。
俺はそれを見るのが楽しみだった。
俺への愛を歌ったものなど片手で数えるくらいだが、
逆にそれが重すぎず気楽に読むことができた。
仕事人間のアイツは職場のさまざまな悩みを
ステータスメッセージに書いていた。
今思えばあれがアイツにとっての俺へのSOSだった
アイツには夢があった。
短歌を仕事にしたいという夢が。
穂村弘に憧れて毎月、ダヴィンチを買って応募して
たった一度だけど
採用された時、真っ先に俺に見せてくれた。
あの頃が今でも懐かしく、そして幸せだった。
アイツが珍しく直接、俺のLINEに短歌を送ってきた時
あれが別れの挨拶だったのだろう。
すぐに返信しても既読は永遠につかなかった。
今でも消せないアイツとのやりとり。
「私だけ暗い倉庫に閉じこもり
日向をくれた君はサファイア」
遠くに行ってしまった元カノは
愛情を与えるサファイアの俺を置いて
新たな良縁を求めルビーを探しに旅立ってしまった
誰にも教えてない秘密がある。
でもそれは、夢かもしれなくて
逆にそれは、誰かとの思い出かもしれない。
もし前者ならば幸せで
もし後者ならば不幸せ。
誰にも教えてない秘密は
誰にも知られたくない秘密だから。
パワハラに負けて泣き寝入りしたまま会社を辞めた。
お先真っ暗の未来しか見えない。
泣きはらした私の目は誰にも見せられない。
かと言って、頼れる友達も彼氏もいない。
なぜなら、あの会社で働く仲間が私の全てだったから
親は「辛くなったらいつでも帰っておいで」
と言ってくれたけど、
あの上司に、この試練に負ける気がして帰れない。
疲れ果てたまま膝を抱えてボーっとしていると
闇のような夜の窓から
朝を知らせる一筋の光が入り込む。
音を立てない静かな夜明けは
「ゆっくり進もう」と私に優しく語りかけてくれた。
あの詩に出会うまでは私は自分の殻に閉じこもってた
人が苦手で視線を合わせるだけでも怖かった。
そんな私が殻を破る武器となったのがあの詩だった。
「この世界に悩みのない人はいない
みんな個性という名のコンプレックスを持っている
でもそれをみんなは受容して生きている
だから君も自分を卑下する必要はない
いつかきっと君が前を向いて懸命に歩き出した時
ある人が君に手を差し伸べ共に歩いてくれる
その時をゆっくり待っていよう
意外な時に神様がその人と出会わせてくれる」
私はその詩に出会って初めて
厚い殻を破るための破片を見つけられた。
それから、私は思い切って殻にそれを刺した。
破った今では人と視線を合わせて話すことができる。
他愛のない話で笑い合える。
そして、初めて恋というものに出会い、
愛し愛されることを学んだ。
それを教えてくれたのは大好きなあの人です。
私があの人と親密に話せるようになったのは
私とあの人が自分をさらけ出せるようになったのは
どちらも、あの詩がきっかけだと昨日知りました。