何も告げず俺の元を去ってしまった元カノは
今頃、どこで何をしているのだろう。
付き合っていた頃の元カノのLINEのアカウントは
もう存在しない。
アイツは自分の今の気持ちを短歌にして
自分のLINEのステータスメッセージに書いていた。
俺はそれを見るのが楽しみだった。
俺への愛を歌ったものなど片手で数えるくらいだが、
逆にそれが重すぎず気楽に読むことができた。
仕事人間のアイツは職場のさまざまな悩みを
ステータスメッセージに書いていた。
今思えばあれがアイツにとっての俺へのSOSだった
アイツには夢があった。
短歌を仕事にしたいという夢が。
穂村弘に憧れて毎月、ダヴィンチを買って応募して
たった一度だけど
採用された時、真っ先に俺に見せてくれた。
あの頃が今でも懐かしく、そして幸せだった。
アイツが珍しく直接、俺のLINEに短歌を送ってきた時
あれが別れの挨拶だったのだろう。
すぐに返信しても既読は永遠につかなかった。
今でも消せないアイツとのやりとり。
「私だけ暗い倉庫に閉じこもり
日向をくれた君はサファイア」
遠くに行ってしまった元カノは
愛情を与えるサファイアの俺を置いて
新たな良縁を求めルビーを探しに旅立ってしまった
誰にも教えてない秘密がある。
でもそれは、夢かもしれなくて
逆にそれは、誰かとの思い出かもしれない。
もし前者ならば幸せで
もし後者ならば不幸せ。
誰にも教えてない秘密は
誰にも知られたくない秘密だから。
パワハラに負けて泣き寝入りしたまま会社を辞めた。
お先真っ暗の未来しか見えない。
泣きはらした私の目は誰にも見せられない。
かと言って、頼れる友達も彼氏もいない。
なぜなら、あの会社で働く仲間が私の全てだったから
親は「辛くなったらいつでも帰っておいで」
と言ってくれたけど、
あの上司に、この試練に負ける気がして帰れない。
疲れ果てたまま膝を抱えてボーっとしていると
闇のような夜の窓から
朝を知らせる一筋の光が入り込む。
音を立てない静かな夜明けは
「ゆっくり進もう」と私に優しく語りかけてくれた。
あの詩に出会うまでは私は自分の殻に閉じこもってた
人が苦手で視線を合わせるだけでも怖かった。
そんな私が殻を破る武器となったのがあの詩だった。
「この世界に悩みのない人はいない
みんな個性という名のコンプレックスを持っている
でもそれをみんなは受容して生きている
だから君も自分を卑下する必要はない
いつかきっと君が前を向いて懸命に歩き出した時
ある人が君に手を差し伸べ共に歩いてくれる
その時をゆっくり待っていよう
意外な時に神様がその人と出会わせてくれる」
私はその詩に出会って初めて
厚い殻を破るための破片を見つけられた。
それから、私は思い切って殻にそれを刺した。
破った今では人と視線を合わせて話すことができる。
他愛のない話で笑い合える。
そして、初めて恋というものに出会い、
愛し愛されることを学んだ。
それを教えてくれたのは大好きなあの人です。
私があの人と親密に話せるようになったのは
私とあの人が自分をさらけ出せるようになったのは
どちらも、あの詩がきっかけだと昨日知りました。
今まで背負ってきた経験の中で
私はたくさんの言葉をもらった。
暖かく優しい言葉、目に見えない愛言葉、
時々触れる冷たい言葉、怒りで飛ぶナイフの様な言葉
それぞれの言葉が、
オレンジ、ピンク、水色、黒の花ならば
それらを一つの花束として私は抱きしめる。
これからもその花を受け取ったらこの花束に添える。
永遠に残るこの花束を私は今日も抱きしめる。
誰かと心を通わせた証として。