最後の一つの桜の花が散った。
葉だけが残り新しい自分の背中を押してくれた。
新緑が新たな門出を迎えている。
しかし、それも今日で終わりを遂げようとしてる。
秋になり、葉も色を変えて一枚、また一枚と散る。
「今年も頑張ったね」
季節が移るたびに姿を変える桜の木は
私にそう投げかけたようだ。
「あなたも来年また咲かせてね」
そう告げて私の目の前を降りていく枯葉を受け止める
桜の木は他の木とはちょっと違う哀愁を誘う。
満開の桜で新年度を祝って季節によって姿を変える。
あの頃の春の桜を知ってるからこそ
あの葉のない桜の木を見て悲哀に浸る。
鏡の中の自分は少し大人びて見える。
なぜだろう。
救いを求めて鏡に手を伸ばす。
鏡の中の自分と本当の私の手が重ねる。
そこにひんやりとした硬い感触が私を拒む。
私はリアルの学校生活がつらいから、
意見が欲しくて、助けて欲しくて
私は無表情に大きな声で訴える。
でも、鏡の中の自分は冷たく微笑んでいる。
そして向こう側のその人は
「がんばれ」と口を動かす。
もう、頑張れないよ。
泣きながら弱音を吐いて鏡から手を離すと
気づいたら鏡の中の私は
今の私に戻っていた。
医者から言われた。
「もう、あなたの余命は長くて半年だから
最後にやり残したことをやり遂げるべきです」
ピンクリボンのことを友達から聞いて
初めて乳がん検診に行ったら、
悪性の腫瘍が見つかった。
腫瘍はどんどん階段を上がっていく。
治療もだんだんハードルを上げていく。
「最近のがんは、治療すれば治る」
そんなことを言ってくれるのを待っていた。
だけど、私のガンは気づくのが遅かったらしく
余命を伸ばすことは不可能だった。
髪の毛が抜け落ちて尼さんみたいな顔の私に
尊ぶこともない顔で医者は余命を告げた。
「やり残したこと」
今となってはそんなことは全然見当たらなかった。
あんなに必死に仕事をしていたのに。
あんなに夢中に趣味を楽しんでいたのに。
このまま死を待つのみかと思ったら、楽になった。
ノルマがない自由な毎日。
そう思ってしまった自分が怖い。
もし、永遠に眠りにつくまでにやるべき事があるなら
親より先に逝く親不孝な子供として
最期にこう伝えたいと思って手紙を書いた。
「お父さんとお母さんの子として生まれて良かった。
最期に一つだけ伝えておきたい事があります。
私は私しか残せない功績を残しました。
それは、私の経験を基づき書いたシナリオです。
小説とか、漫画とか、できれば脚本とか。
何かの作品に昇華できたら嬉しいです。
良ければどこかに送ってください」
私はそのわがままな手紙と共に、
こっそりと書き溜めた自伝のような物語の原稿を
クリップに留めて
ベッドの横のテーブルに置いて眠りについた。
私の人生の分岐点となった君は
忘れられない大切な人だった。
離れた今となっては、永遠に私の心で生き続ける。
君が最後についた嘘は私を守るための裏切りだった。
白地にイチゴ柄の包装で包まれたいちごミルクの飴。
小さい頃はあの飴が大好きだった。
いちごが好きなのは今も変わらないけど、
最近はあまり飴を食べない。
先日、職場の事務員さんが「お疲れ様」と言って
あの大好きだったいちごミルクの飴をくれた。
嬉しい以上に幼い頃の思い出がよみがえって
一人懐かしく思った。
あの頃、親しかった友達に会いたくなった。
だけど、今の連絡先が分からないことに
また心がキュッと締め付けられた