大きな成功を収めたあの実業家にも
恋というもう一つの物語では大きな失敗を
したこともあるだろう
きっとそれがまた別の誰かの心を動かして
きっとそれがまた別の事業の幹として生きる
押入れの中に隠れて夜が明けるのを待っていた。
時間帯の夜ではなく
地獄という夜が明けるのを待っていた。
誰かが「もういいよ」と言ってくれるのを
暗がりの中でずっと待つしかなかった。
押入れの外では父親が兄に暴力を振っている。
「助けたい」
そう思っても動けなかった。
怖くて、悲しくて、怯える毎日。
ある日。それは起きた。
父親が突然苦しそうな声を出してもがき
僕のいる押入れの扉にもたれながら
ドスンと大きな音を立てて倒れた。
兄は倒れた父親を引きずって押入れの扉を開けた。
「もういいよ」
その時の兄の顔はあの頃の兄ではなかった。
もう、無数のあざと血が流れていた。
僕は幼な心に分かった。
兄は父親を刺したのだ。
父親の胸にナイフが刺さっていた。
兄は言った。
「ごめんな、アキラ。
これからは二人で新しい暗がりの中で
生きていかなきゃいけないんだ。
大丈夫。兄ちゃんがいるから。兄ちゃんが守るから」
新しい暗がりの中は
少しだけお日様の光を差し込んでいるように思えた。
彼女が淹れる紅茶の香りが好きだった
ラズベリーのような甘酸っぱい香り。
「それを柔軟剤にできたら」
そうすれば彼女とともに生きていける気がするから。
チェーン店のドラッグストアでは見つけられなかった
けど、異国の地の郊外の雑貨屋で見つかった。
「フランボワーズの声色」
花言葉の通り、『優しい』彼女の声が聞こえてきた。
「これからずっと思い出を大切にするよ」
心からそう願った。
「愛してる」をそのまま言わぬ君こそ俺限定の作家になれよ
二人だけで通じる「待ってるね」を作りたいよ、秘めた約束
根暗な私はクラスの中の影のような存在だった。
写真を撮ると心霊写真の主役みたいな私。
ずっとその幽霊の役割を果たさなくてはいけない、
そう思っていた。
彼女に出会うまでは。
中学二年の夏。
ある日その子は転校生としてやってきた。
「初めまして、◯◯と申します。
ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
(なんて丁寧な子なんだろう)
私はそう思った。
その丁寧さが誠実さの表れだった。
彼女の着飾らない素直で積極的な性格と可愛らしさが
相まって彼女はすぐにクラスのみんなと打ち解けた。
私だけやっぱり彼女とも話せなかった。
でも、彼女を見ていると
「何か行動に移さなきゃ」と思わせる魅力を感じる。
その『何か』がわからず私はもがいていた。
(あの子と仲良くなりたい。でも、どうすれば)
そう思っていると私はふと思い立った。
彼女がクラスの子とくすぐり合っているのを見て
私はふと椅子から立ち上がり
彼女に精一杯の大きな声で
「かめはめ波」と言いながらポーズを決めた。
それを見た彼女や他のクラスメイトは、あぜんとした。
そして、沈黙の後に爆笑の渦が沸いた。
かめはめ波をやったのをきっかけで
私は少しずつ彼女と気兼ねなく話せるようになった。
その様子を見たクラスメイトは
「◯◯さん変わったね」
と言われて、徐々にみんなと親しくなれた。
あのたった一つの行動で
彼女とはクラスの中で一番仲の良い友達になれた。