押入れの中に隠れて夜が明けるのを待っていた。
時間帯の夜ではなく
地獄という夜が明けるのを待っていた。
誰かが「もういいよ」と言ってくれるのを
暗がりの中でずっと待つしかなかった。
押入れの外では父親が兄に暴力を振っている。
「助けたい」
そう思っても動けなかった。
怖くて、悲しくて、怯える毎日。
ある日。それは起きた。
父親が突然苦しそうな声を出してもがき
僕のいる押入れの扉にもたれながら
ドスンと大きな音を立てて倒れた。
兄は倒れた父親を引きずって押入れの扉を開けた。
「もういいよ」
その時の兄の顔はあの頃の兄ではなかった。
もう、無数のあざと血が流れていた。
僕は幼な心に分かった。
兄は父親を刺したのだ。
父親の胸にナイフが刺さっていた。
兄は言った。
「ごめんな、アキラ。
これからは二人で新しい暗がりの中で
生きていかなきゃいけないんだ。
大丈夫。兄ちゃんがいるから。兄ちゃんが守るから」
新しい暗がりの中は
少しだけお日様の光を差し込んでいるように思えた。
10/29/2024, 6:19:29 AM