医者から言われた。
「もう、あなたの余命は長くて半年だから
最後にやり残したことをやり遂げるべきです」
ピンクリボンのことを友達から聞いて
初めて乳がん検診に行ったら、
悪性の腫瘍が見つかった。
腫瘍はどんどん階段を上がっていく。
治療もだんだんハードルを上げていく。
「最近のがんは、治療すれば治る」
そんなことを言ってくれるのを待っていた。
だけど、私のガンは気づくのが遅かったらしく
余命を伸ばすことは不可能だった。
髪の毛が抜け落ちて尼さんみたいな顔の私に
尊ぶこともない顔で医者は余命を告げた。
「やり残したこと」
今となってはそんなことは全然見当たらなかった。
あんなに必死に仕事をしていたのに。
あんなに夢中に趣味を楽しんでいたのに。
このまま死を待つのみかと思ったら、楽になった。
ノルマがない自由な毎日。
そう思ってしまった自分が怖い。
もし、永遠に眠りにつくまでにやるべき事があるなら
親より先に逝く親不孝な子供として
最期にこう伝えたいと思って手紙を書いた。
「お父さんとお母さんの子として生まれて良かった。
最期に一つだけ伝えておきたい事があります。
私は私しか残せない功績を残しました。
それは、私の経験を基づき書いたシナリオです。
小説とか、漫画とか、できれば脚本とか。
何かの作品に昇華できたら嬉しいです。
良ければどこかに送ってください」
私はそのわがままな手紙と共に、
こっそりと書き溜めた自伝のような物語の原稿を
クリップに留めて
ベッドの横のテーブルに置いて眠りについた。
11/3/2024, 6:51:28 AM