その世界はボロボロだった
現実とうつつの世界が入り混じった、そんな世界。
瓦礫が散らばり、空が割れ、星が溶けている。
辺りには、沢山の死体があった。
人間、動物、怪物や、キメラまで、多種多様に。
そんな世界を、一人の女性が眺めていた。
ベージュの髪を肩まで伸ばし、カーキのコートを羽織っている。
清廉な顔立ちに、可愛げがトッピングされたそんな顔。
コートと同じ色の眼で、崩壊する世界樹を見つめる。
爆弾を落とされたかのように、いやそれ以上に、世界が死にかけていた。
『答えは決まった?やなぎ』
どこからか、声が聞こえた。
体に刻み付けられたかの様な、そんな感覚を覚える。
「うん。決まった」
やなぎと言われた女性は、深呼吸して、答えを伝えた。
「あなたの提案は断るよ。とても、魅力的なだけどね」
『…なぜ?』
「この旅でね、この世界の事が大好きになったんだ。
この世界は醜くて、ひどく腐ってて、とっても狂っている。そんな世界だ。」
「でも、だからこそ。感情が、生と死が、人生が、とってもとっても、美しくなる。それに気づいた」
やなぎは微笑む。もうこの世にいない友を思いながら。
「だからね、断るよ。"この惨劇を無かったことにする"という、あなたの提案はね。」
『……』
「あなたの提案に乗ったら、私達が友達だったことも、苦しくて乗り越えた過去も、見たかった未来を望む感情も、無かったことになってしまうんでしょ?」
『そうだね』
「私はこの世界で生きてみせる。私の愛する世界で、私の大好きな人達を思いながら、未来を創ってみせる。」
声は、暫くの間黙り、嬉しそうに言葉を書いた。
『そっか……ありがとう。その答えは、私が求めていた答えだったのかもしれない。私がこの世界を生み出した目的を、叶えられた様な気がするよ。』
不思議な声は、そう言ってどこかに消えた。
旅時の果てに残されたのは、狂って、死にかけた世界だった。
それでも彼女は笑う。この世界で生きていることを。
「さてと…愚者として、いっちょ頑張りますかぁ!」
お題『旅路の果てに』×『爆弾』
そこは、薄明色に染まっていた。
道も、家も、木もない。
ただ薄明色へと、空間が変化し続けている。
縦も横も、奥も手前も、何もかもわからない空間を、一人の少女が、てくてくと歩いている。
ガラスの様に透明な髪が、肩下まで伸びて外側にハネ、顔にはガスマスクをはめている。
「次は1940…え!戦時中じゃないですか〜今日はハズレだな…スニーキングが大変なんだよ〜」
マスクでこもった声を上げ、少女は歩き続ける。
「タイムトラベルも、肉体労働ですね。
たった一つの手紙を届けるのに、手間がかかりすぎですよ。やっぱり辞めようかな…でもあの人怖いんだよな〜ビジュが」
時間移動の郵便屋は、誰に訊かせる気もない愚痴を、歩くための燃料とし続けた。
お題『あなたに届けたい』×『タイムトラベル』
そこには、たくさんのパソコンが転がっていた。
薄暗く、無機質な部屋の真ん中に、ゴミの山が形成されている。
古臭い大きな物、ノートの様な薄い物、家におけそうな物。図鑑が作れる程に、豊富だ。
その山に、壊れたパソコンが、新たに投げ込まれた。
投げ込んだのは、カーキのコートを羽織った女性だ。
ベージュの髪を肩まで伸ばし、大人びていて、可愛げのある顔をしている。
「これで最後かな」
一仕事終えた様に、ふーっとため息をつく。
深夜の公園にいるかの様に、彼女は物思いにふけた。
「人工知能ってのは怖いね。"愛して"と命令しただけで、こうなっちゃうんだから」
パソコンのそばにある人骨を眺めて、そう言った。
お題『I LOVE…』×『人工知能』
そこは草原だった
風になびき、花や木が一つも無い、そんな草原。
中央には土でできた街道が、真っ直ぐと、地平線の向こうまで続いていた。
その道を、二人の旅人が話しながら歩いていた。
「本当に、この先に街があるんですか?」
灰色の、綿飴をちぎったような髪をした少年が、そう聞いた。全身を紺のマントで隠している。
「そのはずなんだけどね。なんせこの次元は、毎秒位置が変わっちゃうからね。めんどうだよ」
ベージュの髪を肩まで伸ばし、カーキのコートを羽織った女性が、そう答えた。
少し大人びて、それでいて無邪気な顔だ。
「確か、交易で盛んな街ですよね。
にしては、街道が整備されていないですけど」
「うーん、そうだねぇ……
まぁ、無かったら無かったで、その時考えよう」
「僕達の生活賭かってるんですからね!
この依頼をこなせなかったら、もう何かを質に入れるしか、穏便な手段は残されて無いですよ、やなぎさん」
やなぎと呼ばれた女性は、へいへい、と軽返事をした。
そうして喋りながら歩いていると、地平線の向こうに、建物が見え始めた。
「あ!あれですかね?僕、先行ってます!!」
少年は、鬼ごっこのように走り出し、その勢いでおもいっきり跳躍をした。
マントがその体を隠し、ぐにゃりと体が捻じ曲がる。
腕が翼となり、脚がもふもふの体毛に埋もれ、獲物を掴めそうな爪が生える。
それは人サイズの、灰色の梟だった。
梟はバサバサと、大きな翼をはためかせ、街の見える方向に向かって飛んでいった。
「ちょっと待ってレーラ、その街は多分…ってあーあ、行っちゃった」
レーラと呼ばれた少年、梟の姿はもう見えない。
やなぎも、駆け足でその後を追った。
数分走り、やっとレーラに辿り着いた。
彼は大きな梟の姿で、立ち尽くしていた。
やなぎは、彼が無言の理由をすぐさま悟った。
目の前にあったのは、街だった。確かに街だ。
火をつけたら全てが燃えそうな、木製の一軒家が立ち並び、中央には噴水と井戸がある。
奥には塔のような何かが、街を守るように建っている。
しかし、街が、街であるがための、それらがなかった。
「やなぎさん…これは…」
「ゴーストタウンだ。人なんて、いない。そんな街」
お題『街へ』×『幽霊』
キーンコーン カーンコーン
授業を終える、チャイムが鳴る。
なんの変哲もない、強いて言えばそこまで偏差値が高くない、そんな高校。
ジャージ姿の二人の女子高生が、机の中にある筆箱やら教科書を鞄に入れながら、雑談していた。
「ねぇねぇ!この前言ってたやつ、今日行こうよ!」
茶髪の女子生徒が、元気に聞く。
髪を高い位置で結び、手首にチェック柄のシュシュを嵌めている。
「この前って、昨日の話のこと?」
黒髪の女子生徒が、めんどくさそうに聞く。
洗いやすそうなショートカットに、水色のヘアピンで前髪を端に留めている。
「そうそう、旧校舎のこと!ぜっったい見るべきだよ、恋愛破滅の石像!」
「あれは初代美術部が作った作品だって、昨日も言ったでしょ?確かに、いろんなことはあったらしいけど。」
「その"いろんなこと"が、ありすぎだよ!
飾られた石像の前を通ると、カップルが喧嘩になったり、石像の写真を撮ると、相手のことを嫌いになってしまったり、偶然にしては出来すぎてるじゃん!」
「まぁ…確かに、旧校舎に隔離されてるぐらいだし…」
短髪の生徒を押し倒すかのように、シュシュをつけた生徒は、ぐいぐいと話を続けまくる。
辺りの生徒が居なくなるほど時間が経ち、渋々、短髪の生徒は同行することを承諾した。
所々、床や壁の木が剥がれ、ガラスなんてものは何もない、木製の旧校舎。
ネズミが居そう、いや居なきゃおかしい雰囲気のその場所は、後者と比べたら小さい、二階建ての建物だ。
老朽化によって封鎖されたその敷地には、立ち入り禁止の看板と、規制線のようなテープが貼られていた。
もちろん、二人の生徒はそれを潜り抜け、スマホのライトで灯りを確保しながら、探索をしていた。
「確か、石像って2階の中央に置かれてるんだよね?
というか、言い出しっぺが足震えてんじゃないか。」
「むむむむむ、むり〜。思ってた100倍コワイヨー!!」
ため息を吐き、後ろにしがみついてくる腕を邪魔くさく思いながら、短髪の生徒は階段を登り、2階に辿り着く。
教室と階段の間、つまり廊下のど真ん中に、目的の石像は置かれていた。
白い石のようなもので、堂々と少しダサいポーズを決めた、男性の像だ。
「ほら、あったよ。」
うっひょー!と言いながら、びびっていた先程までの姿を壊し、シュシュの生徒は石像の前に立つ。
「待ってました!うわー雰囲気あるねーー」
「結局、何がしたいのさ。破局させたいカップルとかいるの?」
「そんな、闇のカプ厨じゃないんだから。目的は、これなのだー」
闇のカプ厨ってなんだよ。というツッコミをスルーしながら、カバンをゴソゴソ漁り、取り出したのは一枚の写真だった。
「浮気した元カレをね、ちょっとね、呪いたいんだよね。なんか、拗らせたインフルとかかかって欲しいんだよね。死なないぐらいの、後遺症が残るタイプの。」
「やけに具体的だなおい。ん?なんだこれ」
短髪の生徒は、床に落ちているそれを拾い上げた。
それは、手のひらに収まるほどの十字架だった。
ひんやりと冷たい感触が手のひらに伝わり、首にかけられるチェーンが通されている。
「なんだこれ、ねー、これあんたの?」
石像の方に目を向けた。しかし、目的の人物は居なかった。
いや、居ないのではない。倒れていた。
石像の前で、ぼろっちい床の上で、仰向けになって倒れていた。
倒れた音もなく、断末魔も聞こえなかった。
「ちょ、どうしたの!?」
咄嗟に駆け寄り、十字架を床に置いて、その手で彼女を介抱する。
口元に耳を近づけると、すぅすぅと寝息を立てていた。
手首に人差し指を当て、脈を確認する。特に異常は無い
「な、え?寝てる?嘘だろこんな所…で…」
ツッコミの声が、だんだんと弱くなる。
彼女の頭を支えていた腕に、力が入らなくなる。
焦点がぼやけ、言葉を出すための喉が動かない。
意識がぷつりと切れ、倒れ込む…ことはなかった。
地面に体が落ちそうになったその瞬間、頭に手を当て、その体を支える。
その手には黒い革手袋がはめられ、ゆっくりとその頭を地面に、衝撃のないように置く。
「ふぅ…あぶない。これもワタシの優しさゆえだね。」
石像の前で倒れている、二人のジャージ姿の女子高生。
その側で立っていたのは、すらりとした男性だった。
オールバックの金髪に、赤と青が混ざった眼。
白いシャツに、黒い革ジャケットを羽織り、黒くて長いパンツを着こなしている。
「まさか、二人も捕れるなんて。運がいいな。
さて…運ぶとするか。」
パチンと、革手袋なんてしていないような軽快な音を鳴らすと、近くの部屋からコウモリの様な生物が、数匹と現れる。
シュシュした生徒の服を掴み、危なそうに持ち上げる。
黒い男性は、短髪の生徒をお姫様の様に抱える。
そうして、まるで漁から帰った漁師の様に、笑みを浮かべて、旧校舎から姿を消した。
お題『優しさ』×『ヴァンパイア』