視界が真っ暗になる
目を開けると、体は動かせなくなっていた。
目の前の地面の匂いと血の匂いが鼻を刺激する
呼吸をしようとすると、腹に激痛が走る。
さっきのそいつのせいだ 腹を蹴られたんだった
そいつはゆっくりとこちらに近づき、追い打ちとして腹を思いっきり蹴りやがった。
声に出ない悲鳴が頭の中で埋めつくされる
「弱者が私の理想に歯向かうものではないぞ」
人をなんとも思っていないその冷たい目で見下す
「もう二度と歯向かうんじゃない。あの女と同じ目に遭いたくなければな。」
「あの女…?」
眠りかけていた意識が、その言葉によって這い上がる。
「あの女って…誰のこと…言ってんだよ」
喉の限界を無視して、質問を投げかける。
そいつは何も喋らない代わりに、こちらにある物を投げてきた。
地面に落ちたそれは、クリオライトでできたブレスレットだった。
純白なはずのそれは、赤黒い血がこびりついている。
「まさか」
それは、俺が彼女にプレゼントした物だった。
半年前の誕生日に あの時に
自分の脳内が、別の想いに埋めつくされる。
その想いはなんなのだろうか
復讐?後悔?悲しみ?
もうわからない
だが、もう二度と会えないという事実がずっと脳内に残り続ける。
動かなかったはずの体を動かし、立ち上がる。
右脚は切られ、左目は使い物にならなくなっていた。
しかし今は歩けるし、見える。
右脚はいつのまにか白いクリオライトが生えており、なんだか視界の左は、キラキラと白く輝いているような気がするのだ。
冷たい目で見下していたそいつは、氷が解凍したように驚きの顔を浮かべている。ざまぁみろ
「さぁ歩け もう二度と後悔しないために」
そんな言葉が頭の中に浮かんだ気がした
手から白く輝くクリオライトの片手剣が生み出される
それを強く握りしめる
さぁ、第二ラウンドの始まりだ。
クリオライト 氷晶石
石言葉 『行動』『決断力』
お題『もう二度と』×『クリオライト』
空に広がる灰色の雲
顔も声もその雲と一緒にどんよりしてしまう
人通りのない住宅街
十字路を曲がろうとした時、後ろから声をかけられる。
あのうざい、ストーカーの声だった。
「こんな呑気にお散歩してていいのかにゃぁ?」
首輪についている鈴のような声だ
振り返ると、そこには予想通りの人物がいた。
白く短い髪に頭から生える二つの白い猫耳
猫と同じ瞳孔の黄色い目
首には赤いチョーカーに銀色の鈴
おまけに猫のような細い尻尾をふりふりと揺らしている
「おまえか猫女 なんのようだ」
「なんのようもクソもないにゃ 言葉通りだにゃ」
「俺は呑気にお散歩なんかしていない。ミッション遂行中だ、さっさとどっかいけ。しっし」
邪魔だと手を振るが猫女は見向きもしない
「ふーん それって、自殺者増加の調査のことかにゃ?」
「…そうだよ、原因が想背者の可能性が高いから、わざわざ俺が出向いて潰しに来てやったんだよ。」
さっさと会話を終わらせたいあまりに、無意識に足が進行方向に向いてしまう。
「じゃあお前はバカにゃ」
「あぁ!?なんだとてめぇ」
「犯人はもうここにいるにゃ」
「は…?」
「気づいてないのかにゃ?」
俺が意味がわからない顔をしていると、猫女は不気味に笑いながら頭上を指する。
「この雲、本物の雲じゃない。想背者にゃ」
とっさに頭上を見上げる
先ほどまで普通の雲だと思っていた雲は、もくもくと異常なスピードで顔の形を作り出す。
バレてしまったかと言っているかのように、鳥肌を立たせる不気味な笑顔を浮かべた。
お題『雲り』×『戯猫』
「ばいばい」
そっと彼女の頬に口付けをした
目の前には横たわり動かなくなった彼女の体
落ち着く紫色の長い髪
白と黒のフリルがついたワンピース
もう開くことのない瞳
自身のポケットからハンカチを取り出し、顔にかける。
深く息を吐き、彼女に背を向けた。
視線の先には鳥と豚が合体したような化物
内ポケットから磨かれた銃を2丁取り出し、構える。
「すまんが、全員逝ってくれ。」
彼女な安らかな時を守る為に、少しだけ煩い音を発射し始めた。
お題『bye bye…』×『安らか』
「ねぇ、あれみて!」
緑色の小さな手で君は僕の手を掴む
そして目の前に広がる景色を見せてくれた
それは宴会場だった
様々な化物…想背者(そせいしゃ)と呼ばれる存在達がぎゃーぎゃーと騒ぎながら笑い合っている
2mある三つ目の巨人
象のように長い鼻を持つネコ
豆電球に手足が生えているやつに
ドレスを着た紫色のドラゴン
そんなのが大量だ
かく言う僕も彼らと同じ想背者なのだが
手を掴んだ君は、その光景を指さしてキラキラとした瞳でこちらを見つめてくる。
緑色の小鬼のような君は、小さな足でここまで僕を連れてきてくれたのだ。
「わかった、一緒に行こう。」
その好意を無下にすることなどできない
僕が承諾すると、君は口を大きく開きにっこりとなる。
「いこ!いこ!」
小さい手に似合わない怪力で、僕はなすがままに引っ張られる。
淡い光に包まれ、酒と想いの匂いにまみれたその場所へ、僕たちは足を踏み入れた。
まさか
これが最後の景色なんて思いもせず
お題『君と見た景色』×『宴』
「ちょっと、忘れてるわよ!」
お嬢様の声と共に宙に浮かぶ弁当箱
慌てながらそれをキャッチし ほっとため息をついた
「飯作ったやつの投げ方じゃねぇ」
「しょうがないでしょ?もう出撃なんだし」
お嬢様は白くてフリフリのエプロンを脱ぎながら、時計を指差す。
「まっずい!それじゃ行ってくるわ!」
司令室へ向かおうと扉に向かおうとすると
「待って!」
「今度はなんだよ」
呆れながら振り向くと
お嬢様は俺の手を握っていた
頭に?が5個ぐらい浮かぶが、すぐに納得する。
「こうしないと、不安になるんですもの。」
「…わかってるよ 柚みたいにならないかってことだろ」
お嬢様はこくりと頷く
「………」
「絶対そうはならない。なんて言わない
ただ、ならないように最善を尽くすし、生きるのを諦めないって誓うよ。」
お嬢様はうつむいて何も言わないままだ
「流石に行かないと、司令官様にどやされる。」
握ってくれたその手を優しくほどく
「いってきます」
「…いってらっしゃい」
お嬢様は泣きそうな声でそう言ってくれた
「さて、また手を繋げるように頑張りますか。」
弁当箱を片手に持ち、司令室に早歩きで向かった。
お題『手を繋いで』×『昼飯』