「ねぇ、あれみて!」
緑色の小さな手で君は僕の手を掴む
そして目の前に広がる景色を見せてくれた
それは宴会場だった
様々な化物…想背者(そせいしゃ)と呼ばれる存在達がぎゃーぎゃーと騒ぎながら笑い合っている
2mある三つ目の巨人
象のように長い鼻を持つネコ
豆電球に手足が生えているやつに
ドレスを着た紫色のドラゴン
そんなのが大量だ
かく言う僕も彼らと同じ想背者なのだが
手を掴んだ君は、その光景を指さしてキラキラとした瞳でこちらを見つめてくる。
緑色の小鬼のような君は、小さな足でここまで僕を連れてきてくれたのだ。
「わかった、一緒に行こう。」
その好意を無下にすることなどできない
僕が承諾すると、君は口を大きく開きにっこりとなる。
「いこ!いこ!」
小さい手に似合わない怪力で、僕はなすがままに引っ張られる。
淡い光に包まれ、酒と想いの匂いにまみれたその場所へ、僕たちは足を踏み入れた。
まさか
これが最後の景色なんて思いもせず
お題『君と見た景色』×『宴』
「ちょっと、忘れてるわよ!」
お嬢様の声と共に宙に浮かぶ弁当箱
慌てながらそれをキャッチし ほっとため息をついた
「飯作ったやつの投げ方じゃねぇ」
「しょうがないでしょ?もう出撃なんだし」
お嬢様は白くてフリフリのエプロンを脱ぎながら、時計を指差す。
「まっずい!それじゃ行ってくるわ!」
司令室へ向かおうと扉に向かおうとすると
「待って!」
「今度はなんだよ」
呆れながら振り向くと
お嬢様は俺の手を握っていた
頭に?が5個ぐらい浮かぶが、すぐに納得する。
「こうしないと、不安になるんですもの。」
「…わかってるよ 柚みたいにならないかってことだろ」
お嬢様はこくりと頷く
「………」
「絶対そうはならない。なんて言わない
ただ、ならないように最善を尽くすし、生きるのを諦めないって誓うよ。」
お嬢様はうつむいて何も言わないままだ
「流石に行かないと、司令官様にどやされる。」
握ってくれたその手を優しくほどく
「いってきます」
「…いってらっしゃい」
お嬢様は泣きそうな声でそう言ってくれた
「さて、また手を繋げるように頑張りますか。」
弁当箱を片手に持ち、司令室に早歩きで向かった。
お題『手を繋いで』×『昼飯』
荒く口から息を吸って吐く
腕が痛くなるほど大きく振る
感覚がなくなるほど足を目一杯前に出す
心臓がうるさいほど強く響く
月が雲に隠れたその時
ネオンが輝く都会の路地裏を
私は全力疾走していた
右を見ても左を見ても
どこにもあの存在はいない
足を止め、スキップしている心臓を休める。
息を細かく吸っては吐き、なんとか落ち着かせる。
もうすぐ雪が降るという時期なのに、今の現象のせいで汗がべたりと服に付いた。
そんな汗ばんだ体を涼ませるかのように、後ろから風が吹く。
そう、風が。涼しい風が
いや、おかしい。
さっきまで風なんて吹いていなかった
違和感を感じ、神経をその風に向ける。
その風は、普通の風ではなかった。
ピリピリと肌が痛くなるような、まるで刃物にでも刺されたかのように血の気が引く。
風に色がついているなら、それは間違いなく赤だ。
狂気の赤色 そう、狂風だ。
後ろを振り返る
その存在はそこにいた 佇んでいた
2mある人のような姿だ。でも人じゃない。
二つの手で二つの刀を手に持ち
二つの足で地を踏み締めていた
全身は黒猫のように真っ黒で、夜を切り取ったかのように人の恐怖を思い出させる。
獲物が休憩するのを待っていたかのように、それは顔と思わしき部分を動かして、ケタケタと笑う。
耳に残る、金属音のような声だ。
始まるよと言わんばかりに二つの刀を大きく振るう
その太刀風だけで、近くの窓ガラスが割れる。
あぁ、まだ終わっていない。
朝になるまでこの存在から逃げ切らなくては
お題『どこ?』×太刀風
月が真上に立って世界を見下ろす
ビルの屋上で淡い光を放つビル群を眺めながら、隣にいるあなたはこう言った。
「さよなら」
とっさに手を掴もうとするが、それは叶わなかった。
あなたの手は、体は、血液をもった肉体から淡い雪の体となり、溶けてしまったから。
私の手が、溶けてしまった雪に触れる。
雪は一瞬にして溶けて、床に水たまりを作り出す。
彼の言動を思い出す
これが彼の言っていた、死なのだろうか。
これが彼の言っていた、望んだ姿なのだろうか。
これが…彼の言っていた、幸せなのだろうか。
今朝見たニュースを思い出す
人が跡形もなく消えてしまうニュースを
まるで雪に溶けたかのように
まるで重なった世界に移動したかのように
まるで人ではなく化物になってしまったかのように
その人達は消えてしまったのだと
頬を伝う涙を拭い、その場を後にした。
「これがあなたの幸せなら、私も私の幸せを目指す。」
誰にも届かない独り言を、水たまりに伝える。
「あなたに大好きだって、伝えてみせる。」
あなたを想う気持ちを、手の中で握りしめた。
お題『大好き』×『淡雪』
落ちていく
私の楽しさも 息苦しさも 生き甲斐も
すべて大きな穴に落ちてしまった
今まで楽しかったことが楽しくなって
今だけ楽しくないと思っても
それがいつまで続くのかわからない
不安の大きな穴に
私の心は落ちていく
密接した空間から解き放たれて
自由と思いきや 今までの鎖が恋しくなって
不安になって
また 落ちていく
私の痛みが落ちていく
今まで何気なく過ごしていて
その日々と別れなくちゃいけなくて
この日常が続かないことを許容できなくて
考える心を大きな穴に投げ捨てた
落ちていく 私の生き甲斐が落ちていく
でも
まだ私は生きていたい
自分の意思で生きて
自分が楽しい娯楽を見つけて
自分だけの悲しみへの向き合い方を知って
自分だけのエンドを迎えたい
あぁ
私はまだ落ちれないな
お題『落ちていく』