「あの、私、死んだんですか」
「さあ」
「何ですかさあって」
「私にも分かりません」
何だこの糸目の男。この列車の車掌を名乗った上に制服まで着ているようだけど、どうも胡散臭い。
「何ですかそれ」
「まあ、そうかっかしないで。窓の外の星でも見ていてください」
「星で機嫌が取れるとでも?」
「ええ。お好きでしょうから」
そうこうしている間に列車は終点まで来てしまった。この胡散臭い男と話をしていたせいで時間が短かったように感じる。
「それでは、またお会いしましょう」
見上げればネイビーブルーの空に星が瞬いている。男はどこか懐かしいような笑みを浮かべると、そのまま制服のマントを翻し消えてしまった。
「誰だったっけ、あの人」
私はいつも、思い出せないままだ。
「ねえねえ、その翼に僕を乗せて!」
「この羽はね、あんたと一緒で傷だらけになっちゃってて、もう飛べないの。まあでも、あんたが大人になったら考えてあげるわ」
ぼくはリリーの綺麗な羽が大好きでした。リリーの羽はとてもきらきらしていて、見るたびに嬉しい気持ちになりました。
「羽の生えた人間がいるらしいぞ、きっと良い値がつく。」
リリーは、ある日の朝突然いなくなりました。ぼくは今でもずっとリリーを待っています。でもリリーなら強いから、絶対、今もどこかで元気に暮らしています。
大人になったらって言ったくせに、リリーのばか。
「ねえ、今のって流れ星?」
赤らむ空を見上げて、あの子はそう言った。
彼女の大きな瞳に夕暮れ空の赤が反射して、りんご飴みたいだったのを覚えている。
夕方に流れ星なんてあるわけないのに馬鹿だなって、2人で笑った。
あの子はその後事故に遭い、私達にとってそれが最後の思い出になってしまった。
何故だろう。
心なしか、今日は一段と空がキラキラして見える。
まだ、夕方なのに。
「ねえ、今なら見えるよ。流れ星」
一緒に見たかったのに、馬鹿。
螺旋の洞窟に落ちていく。
針の動かない時計がそこかしこに浮いている。
ここに逃げたのね、あのうさぎ。
姉さんの命を奪った、あのうさぎ。
アリス、アリス、そう呼ぶ声が遠くに聞こえた。
夕飯の時間になるから、きっとママがあたしを呼んでるんだわ。
木霊するママの声はだんだん遠くなる。
螺旋がぐるぐる回って、私は下へ下へと沈んでいく。
ごめんママ、やっぱりあたし、まだ帰れない。
浮気性な彼を追い出してやった。
彼の笑顔にも、声にも、もう二度と会うことはない。
そう考えるとすっきりするはずなのに、私はなぜ泣いてしまうんだろう。
私の涙はきっと、月並みな別れ方をした事への悔しさからだ。
そう信じて、私はベッドに潜り込む。
「あの子、私よりずっと可愛かった…」
誰にも聞こえないように、そっと独り言をこぼして。