身震いしながら縁側に座る。寒いけれど、冬特有の暖かな午後の日差しが心地いい。日向ぼっこをしていると、隣に一文字則宗が腰を下ろした。
肩や手が触れ合いそうで触れ合わないけれど、ふんわりと貴方の体温を感じれる。この距離感、悪くない。
「寒いなぁ。」
「冬やもんね。」
いつの間にか白くなった息を悴む手に吹きかければじんわりと温もる。それでも寒くて、手を擦り合わせていると横からスッと手が伸びてきた。
「相変わらず、冷やっこいなぁ…お前さんの手は」
「……………冷え性だからね」
繋がれたことにより、則宗の体温を私の手が奪う。振り解きたいところだが、思いの外暖かくて離れ難い。ふとまだ冷たい片方の手に目を向け、ニヤリと口角があがった。向こうから触れてきたのだ、こっちの手も暖めてもらおうかな。思い立ったらすぐ行動!と則宗の方に体を向けた。突然の行動に珍しくきょとんとした表情、ちょっと幼くて可愛らしい。
「なんだ?ある…っっ!?」
彼が最後まで言うまでに、身を乗り出して己の片手を則宗の剥き出しとなった首筋に当てがう。突然の冷たさに飛び上がる則宗。ぞわりと逆立つ肌の感触にしてやったりと優越感に浸れる。こんな悪戯ができるのだから、冷え性も存外悪くない。やいのやいのと文句を言う彼を無視して空を見上げた。
なんてことないこんな距離が1番いいなぁ。次は誰の体温を貰おうか……
一文字則宗×女審神者
-お前はどこまで行っても人斬りの刀だ。どこに居ようが、その事実はかわらねぇよ。
鏡の中の自分が嘲笑う。わかってるさ…んなこと、言われねぇでもよ。俺は血に塗れた刀、それ自体は変えようのねぇ事実だ。
そう思いながら俺は嘲笑う鏡の中の俺を拳で殴る。静寂の中、鏡の割れる音が響き渡る。散らばった破片をぱきりぱきりと踏みつけた。
「俺は俺だ。やりてぇようにやるだけだ。」
ふと意識が浮上し、目を開ければそこは先ほどの鏡の部屋ではなく平和ボケした本丸の中庭の景色が広がる。先ほど殴った拳を見ても傷一つついちゃいねぇ。どうやら夢を見ていたようだ。
「肥前ー!あんた馬当番でしょ!こんなとこで呑気に昼寝なんていい度胸してんじゃない。」
「あ?俺に馬の世話なんてさせるんじゃねぇよ。」
「当番は当番!そんなこと関係ないの!ほら早く行くよ!」
やかましい声と共に現れたのは俺の新しい主人。うるせぇ女だ。
だが、存外ここでの生活は悪くねぇ。飯はうめぇし、それに…。
-別に斬りたくないならしなくてもいいよ。無理強いをするつもりはないから。肥前のペースですればいいよ。
こいつの言葉がすとんと胸に燻る靄を突き抜けた。俺の中で踏ん切りがついた気がしたんだよ。あの時とはちげぇ、俺は動ける身体を手に入れた。俺のしたいようにしていいと言われた気がした。
そん時から、あんたのためなら血に塗れてもいいって思えたからな。
ぜってぇ口に出しては言わねぇがな。
168番 肥前忠広
人の命が儚いことは分かってる。
それは側でずっと見てきた、沖田くんの最期を見送った時に痛感した。
あんな気持ちにはもう二度となりたくない…だから貴方を主と認めたくなかった。だって、どうせ僕らを置いて逝ってしまうんだから。
でも、でもね、貴方と共に過ごすうちに思ってしまったんだ。
僕も貴方の愛刀と呼ばれたい。貴方のために戦いたいって…沖田くんほどではないとしても、こんなにも僕を使いこなしてくれる貴方に心から仕えたいって思ったんだ。だから決めた、修行へ行くって。他の誰でもない、貴方を守る為、この場所を守る為に強くなりたいって思ったんだよ。限られた時間だと分かっていても、永遠にこの時が続けばいいのにって思ってしまう。どうかいつまでも僕を側に置いててね、主。たとえ貴方が死してなお、この大和守安定…貴方の魂を永遠に守り続けるよ。
87番 大和守安定
人が紡ぐ物語で僕らは生まれる。それは史実であったり架空だったり形は様々だ。どんな物語にも愛がある。
僕の中にも、天才剣士の愛刀という物語が流れている。菊一文字…実際にある刀だが、僕を打った刀工がそれを打った記録はない。
だが、人々は語り続けるだろう。それこそが愛なのだから。
今もまた一つ物語が生まれようとしている。
そう、これは僕自身が紡ぐもう一つの物語。
この本丸で主と、仲間達と紡ぐ物語さ。
198番 一文字則宗
暗がりの中、そっと自分の体を抱きしめた。
暗いのは苦手だ…海のあの暗さを、光が届かない竹藪の鬱蒼さを思い出すから。帰らなきゃ…て思うのに体が震える。
俺が帰っても、喜んでくれる人なんていないんじゃないか…なんて考えてた。
そんな時に光が刺したのさ。バカみたいな話だと思うだろ?俺もそう思う…けど本当なんだ。
だからさ、主。
あんたのために刀を振ろうと決めたんだ。だから俺の帰る場所になってくれるかい?
212番 笹貫