「…あ」
部屋の片付けをしているとカメラが出てきた。それには少し長めのネックレスが絡まっている。
「何が撮ってあるかな」
ポチポチ。ボタンを押して中身を見る。
出てきたのは私。
お菓子を食べてたり、テレビを見ていたり、寝てたり。
「なにこれ…?」
筒状のネックレスが不意に落ちた。ぱかりと割れて、中から紙がでてきた。
「なんだろう」
開いて見てみる。文章が書いてあった。
【このカメラは加奈には秘密だ。このカメラに思い出を沢山溜め込むんだ。もし、加奈にこれが見つかったらどんな反応するかな。悲しむ?引く?それとも…喜んでくれるかな…ま、見つからないように隠しとこう】
「…バレバレだよ。なんでこんなに私を愛してたの…」
彼は私に寿命のことを隠してて、病気であっという間に遠くへ行ってしまった。
今日は、彼との思い出を整理する日だ。
「ススキだ」
「ん…あーあれね」
彼が沈黙のあと放った言葉はそれだった。
「花言葉の中に〝悔いのない青春〟ってあるらしい」
「ほえーよく知ってたね」
「うん。そういうの調べるタイプだからさ」
まただ。沈黙が私たちを包む。
「ス…スキだよ」
「え?さっきも聞いたよ」
「ススキって言ってない」
「ん?」
「スキ、って言った」
「あーあー悔いのない青春過ごしてえなあーー瑠菜の返事次第では俺悔いのない青春過ごせるけどなーー」
ダメだ。これだからスキなんだよ。
「…ん、今日はコーヒーじゃないの?」
「うん。今日は紅茶を入れてみたんだ。まだ僕も試してないから2人で飲みたいなあって。」
「そっかあ」
優しい香りがする。お気に入りのマグカップに紅茶が漂っている。
「いただきます」
「どーぞー」
甘い。少しふわふわする気分になる。
「美味しい。」
「ね!これからどうする?コーヒーと紅茶どっちがいい?」
「うーん…交互に飲みたいなあ。だから明日はコーヒーがいいな」
「了解です!あ、でも豆切らしちゃったから今から買いに行かない?」
「うん!行こっか」
白杖を持って、彼の手を掴み、外へ出る。
紅茶の甘い香りが、外の澄んだ空気でより強くなった。
「行こう」
彼も今日は、私に〝香り〟を楽しませてくれる。
「ほんっと頭くる!何回言えばわかるのさ!」
「分かってくれない方が悪いだろ!」
変わらない喧嘩。私達は付き合って約2年。毎日のように喧嘩している。
「いつまでも支えられると思わないで!出ていく!」
「ちょ、おい!なあ――――――」
恋人の言葉を無視し、外へ出る。…少し歩いて振り向くも、姿はなかった。
「…少しは追いかけてくれてもいいじゃない。」
彼は、よく飲み会へ行く。仕事終わりは毎回行くのだが、今日は女性が多い部署の人達と飲みに行ったらしい。スマホを見た後、連絡先に新しく女の名前が3~4人くらい連なってた。浮気を疑っているわけではない。ただ、ふらりとどこかいってしまいそうで不安なのだ。
「もう…なんでよ…」
海の見える居酒屋。店主にはいつもお世話になっている。大体喧嘩した時はここに来るからだ。
「どうした〜嬢ちゃん?今度は何で喧嘩したんだい?」
「…女の連絡先が増えてて、不安になった。」
「そうかいそうかい。どうだ、一緒にツマミでも作るかい?」
「…お言葉に甘えます。」
店主が厨房に向かった時、電話が鳴った。その音を聴き裏へと店主は消えた。
「カレシさん、こっち来るってよ」
「は?本当に?」
「ああ、すごい慌てていたよ。外に出ていたらどうだい。2人分、ツマミ作っとくよ。」
「…はーい」
店を出ると、戸に着いていたベルがなった。
――――――違う。彼の自転車の音だ。
「蓮之!またここにいたのか!」
「東吾…うん。また来たの」
どうしても眉間にシワが寄る。不安でしょうがない。そんな感情が消えないのだ。
「……毎日言ってる事だけどよ」
「うん」
「俺はお前しか愛してないからな?」
「…わかってる」
「…そうか」
私は彼に言った。
「単品でその言葉ちょうだい。じゃないと無効ですよー?」
「…あーあーそうだったな」
彼は私を抱き寄せて言った。
「〝愛してる〟」
「……私も。〝愛してる〟」
お互い顔を見ながら微笑む。この瞬間はいつも安心する。2人で店に入って、テーブルに置いてくれていたおつまみを2人で食べて、色々な話をした。
作ってくれた店主は厨房でなにやら奥さんと話していた。
――――――――――――――――――――――――
「……あの二人、いつも喧嘩するけどなあ。」
「あら、どうしたんです?」
「すぐ仲直りするよな。すげーよ」
「ふふ。合言葉ならぬ、〝愛〟言葉があるんでしょう」
「なんじゃそりゃ」
「ちゃんとお互いを認め直す合言葉です。それが2人だったら、〝愛してる〟なんでしょう。きっと。」
「…そーかぁ。ま、オイラ達はあまり喧嘩しねえけどな。」
「喧嘩する程仲が良いって言いますよね」
「…そこは喧嘩しないけど仲が良いってことで…」
「あはは、安心して下さい。ずっと、私はあなたと過ごせて幸せですよ」
「それは…俺のセリフでもあるぜ」
「ねーねー、一緒帰らん?」
そう言って声をかけられた。
「うんいいよー」
そう言って、鞄を背負い着いて行った。
「なあ、なあ、俺ちょっとイラついてんだよねー今日。だからさぁ、ストレス発散としてよぉ、盗みしようぜ!最高にスリルがあっていいだろぉ!?」
急にそんなこと言うから驚いた。
「え、ちょっ、と」
「な、行こうぜ!」
強く手を引かれる。ほどけない。
「ダメだよ!!!」
思い切り、手を振る。
「いった…なんだよ!ノリ悪ぃな!!」
怖い。でも勇気を振り絞らなきゃダメだった。
「ダメ…!本当に、イライラしてもそんなこと絶対にやったらダメ!お願い!」
「…なんで止めんだよ、おい!」
「〝友達〟だからさ!!!」
「…!」
彼は黙った。もう何も言えない。僕は、伝えたいことは伝えた。
「…ご、ごめん…止めてくれたのに…酷い態度取って…」
「…大丈夫。絶対やらないで。…ねね、今からゲーセンに行こうよ!パンチングマシーンで勝負しよう!」
彼は目を見開く。そして口元を歪ませて答えた。
「…おう!俺に勝てるかなあ?」
「へへ、勝ってみせるよ!」
――――――今日も、僕の〝友達〟は楽しそうだ。