タイムマシーン
未来に行く分には、可能性があるらしい。
相対性なんたかに則ると、スカイツリーのてっぺんと地面は時間経過がズレると言った調子で。
残念だ。私が行きたかったのは過去だった。
私が生まれる前に行って、ぜひ両親に聞いてみたかった。 どうして私を産むの?
こんな質問がありきたりになってしまった世の中は可哀想だ。決して楽ではない出産を乗り越え、自分ではない誰かに時間もお金も費やして、その先にこんなことを聞かれては、怒っても仕方がない。
そう考えるくらい恵まれた環境で育った。だからこそ、訪ねたかった。
あなたの子供はどんなに手をかけても中途半端、普通に漕ぎ着くのにたくさんの労力が必要で、子供は努力が大嫌い。親に平気で嘘をつき、気に食わないことがあれば、怒ったり泣いたりして誤魔化し、本当にどうしようもなくなったとき、あなた方が一生懸命生きてきて得たものを食い尽くす。
そんなでも、産みたいの?
きっと、それでも産みたいと言うのだろうな。
そういう親なのだ。子供の私が1番よく知っている。
でも、なぜ望むかはわからない。これはきっと、私が子供である限り理解し得ないだろう。
同じ学校のあの子がもし両親の子供だったら。優秀な子に素晴らしい環境を与える親がいたら。
感謝している。とても感謝している。
だけど、あなたらが思うほど、私は特別な人間になれなかった。
申し訳ない。ごめんなさい。
色とりどり
私が受けた義務教育に沿うと、まず光のどうこうで色があって、物体は光を吸収したり反射したりする。
簡単に光の色、物の色と言うことにして。それぞれを構成する色を全て揃えると、光は白、物は黒になるのはきっとご存知だろう。
納得のいく事象だと思う。
図画工作の筆洗いバケツが汚かったこと。かわいい色だったのに、魔女のスープに帰結することを不思議に思っていた。
幸せとは
「最近さ、涙もろくなったと思うんだ」
「何?更年期?」
花盛りの17歳である。
「え、そんな引かないでよ」
笑う時も下がり眉なそいつの申し訳なさは、いつも絶妙に察知できない。
「今までなんか見て泣くことなんてあんまりなかったんだけどね、べつに泣けるようなシーンじゃないと思うんだけど。」
「どれ?」
えーと、これ。 あぁこれか〜。
2人でスマホを覗くなら、机に置いたほうが見やすい。
視線は机と垂直に結ばれた。あ、アスパラ入ってる。だからか、しかめ面してたのは。
何話? 最終回。
「最終回はまあ…泣いたっていいよ」
「そういうもん?」
そういうもん。アスパラを避けつつ食べた肉巻きで、おうむ返しは少しくぐもっていた。
年末年始限定で再配信された数年前のドラマ。リアタイはしていなかった。
すればよかったとまでは言わないけど、もう少し早く、もしくは何十年もあとで、見ればな。と今思った。
主人公の母か、その母が恋慕っていたひとが、嫌でも自分達に重なる。
彼女らが生きた時代より、『それ』はあるものとされているけれど。私達の『これ』が果たしてどこまでかなど、物差しが無いから結局わからないままだ。
だから?だけど? 怖い。閉鎖的空間にいると、一緒にいる理由がいくらか省ける。2年で一緒に昼食べてたから。は、わざわざどちらかのクラスに集合するありていな言い訳に成れる。
今は一月。あと二ヶ月で消え失せる居場所。
星に包まれて
どうして月が大きいの?
考える間でもないと、どうか一蹴しないで欲しい。
例えば、外界から月の大きさやあれが衛星であるという情報を取り込まなければ、ただの白いまるになってしまう。
知識はなんと価値あるものだろうと思う一方、素晴らしい先人達が解き明かしてきたそれらを、平面的な媒体上で、単なる結果として摂取するのはいかがなものだろうとも思う。
従属栄養であり続けるのは大変恐ろしく、真実と嘘の味分けがつかない。昨今の生成AIなどで話題に上がる、ハルシネーションも御多分に漏れない。
だからこそ知識に対して強くなる必要がある。さながら舌を肥やすごとく、とりあえず取り込んでみるのも重要だ、と思う。
さて、以上に書いた全ては感想だ。私には語るほどの学はない。
私が言いたいことはつまり、取り敢えず妄想しませんか?というお誘いだ。
物理法則に則って真剣に思考実験しようが、トンデモルールを加えて夢小説を書こうが、どちらも「未(いまだ)」であるから、広義では妄想とも言っていいかはわからないごめんなさい。
それで、以下が私がこのお題を受けて妄想したことである。前説が長くて申し訳ない。私のくだらない話を聞いてくれているなら、あなたは多分私の友達です。
丸がみっつ、特定のバランスで並んでいると顔に見える現象があるそうだ。名前は忘れた。
久しぶりに空を見上げた。Sサイズのコンビニの袋が重力に従ってプラプラしている。
視力が悪くなって、オリオン座の端っこが見えなくなった。誰かの顔のみっつのうちのひとつ。かもしれないのに。
そんなことを言ってしまうと、星というのは遥か先に無数にあるらしく、そのほとんどは遠すぎて目視ではとても見えない。
それを寂しく思った。私がオリオン座の端っこだとして、見える人がだんだんと限られていくことを、怖いと思った。
それを恐ろしく思った。観測できないほどの視線が私を取り巻いていると思うと、怖いと思った。
綺麗とか思った後に、そういう考えを持つようになってしまったのが嫌だった。
知ったことを手放したいと思った。SNSの怖い話とか、相続税とか。
けれども、これは結局妄想であって、「未(いまだ)」である。これ以上はやめようと思って、コンビニの袋の方を見るように歩いた。
星は顔じゃないし、月もただの白いまるじゃない。
妄想だ。私は知識を得ている。先人の恩恵にあやかって、空が落ちる心配をしなくていい人生を送っている。
けれども知識は、私の上下前後左右全てに宇宙と、そこに存在する星があることも教え込んだ。
寝る前、もう一度妄想をした。
ちゅうに浮いたような気分になって、怖かった。
夜空を越えて
____その先になにがあるの?
知らない。「明日」だったらいらないかな。
向かい合わせの机。2つで1セット。
いつのまにか傾いた太陽は、昼間よりずっと眩しい。
空のはじっこは、少しずつ夜になってゆく。
「そんな数学嫌いなん」
「誰が好きになんのあれ、まじで」
「すげー辛辣じゃん、中間そんな酷くなかったでしょ」
「だって範囲ちょー広いんだもん。人の心ないね」
「ないね、無いわ」
2人して椅子に寄っかかる。問題集は真っ白なまま開いていて、筆箱より前に、お菓子を出して食べていた。
「そもそも夜空ってどう越えんの、飛行機?」
「のぞみでも夜乗ったら行けるよ多分」
「まじかー、やば」
身のない会話は回り続ける。いつだってそう。
何を、より誰と、が大切な私にとって一番好きな時間。
「だからって夢に出てくるのは面白すぎるけど」
「なんて?」
「ばかあほたわけ」
「嘘じゃん」
けらけら笑ってるけど、今日は会ってないよ。
私の方が教科多かったから。
「おーるうぇいずびっくらぶって言ったよ」
「おー、うちもうちも」
テキトーに返す感じが我ながらそっくりだ。
テキトーに返すくせに、目はスマホじゃなくて私を見てくれるところも。
「ひどーい、私は真剣なのに。夢にまで出てくるのに」
「じゃ、夢に出すから来てね」
そういって、手を掴まれた感覚。
あれ? あの子の体温だ。
向かい合わせの机。2つで1セット。
この時期はあっという間に夜になる。
何の、より誰の、が大切だ。夢もそう。
どこでも会えるなら素敵だと思った。
明日の前に、あなたに会えるなんて。夜空を越えるのも悪くないね。